【歌人・木下龍也の短歌組手】秀逸な擬人法を使った短歌。
〈読者の短歌〉
読みかけの本に挟んだレシートが豆腐があるのを教えてくれる
「しおりが見当たらないとき、ついついレシートを挟んでしまいます。」
(わもとかこ/女性/テーマ「本」)
〈木下さんのコメント〉
真似します。ぼんやり生きていると冷蔵庫にめかぶとめかぶとめかぶがあるなんてことがよくあります。
〈読者の短歌〉
大丈夫、あなたが燃えていたことは僕が覚えているよ吸殻
(砂崎柊/男性/自由詠)
〈木下さんのコメント〉
「吸殻」を「あなた」と擬人化することでただの燃焼に情熱という意味を与え、優しくも切ない物語を生み出した1首。そういえば煙草って燃えるのは一生に一度きりで、それをいちばん近くで見ているのは「僕」だもんなあ。
〈読者の短歌〉
永遠に君に会い続けるために少しずつ借りるゴルゴ13
(伊藤ちえ/女性/テーマ「本」)
〈木下さんのコメント〉
1巻ずつ借りれば今のところ198回は会えますね。会いたい理由が恋なのか復讐なのかわかりませんが『ゴルゴ13』が永遠に続くことを祈りましょう。
〈読者の短歌〉
鳥の声みたいな音が近づいて近づいてくる銀色のチャリ
「不思議な音を出しながら走っている自転車がたまにいます。」
(今野日日/テーマ「音」)
〈木下さんのコメント〉
いますね。アシカの声みたいなのもたまに。「音が」を「音で」にするか迷いましたが「で」だと最初から「音」の正体が「チャリ」であることをこの短歌の主人公が把握していることになってしまう。(この音は何だ?→チャリかい!)の臨場感を忠実に再現するならやっぱり「が」ですね。
〈読者の短歌〉
音声に従ってゆくこの先は音が聞こえてこなくなる場所
(植木滉/男性/テーマ「音」)
〈木下さんのコメント〉
「音が聞こえてこなくなる場所」というのは何やら不穏なイメージを与えてきます。怪談好きな僕としてはカーナビに案内されて霊のいる場所(トンネルや山奥など)へ向かっているシーンを思い浮かべました。「音」に焦点を当てた抽象的な表現だからこそ実体がつかめず、霊のように読者を不安にさせる1首だなと思います。