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鉄道について、ゆっくり話そう。【六角精児さん×酒井順子さん 対談】

全国のおすすめ絶景路線から文学、歌など、日常の中での楽しみ方まで。
あらゆる角度から鉄道の魅力を味わいます。

撮影・青木和義 スタイリング・秋山貴紀(六角さん)  ヘア&メイク・山北真佐美(WEST FURIE/六角さん)  文・嶌 陽子 写真・アフロ 撮影協力・バー銀座 シュッシュポポン

動いてもいい、寝てもいい。列車の中はどこまでも自由。

六角 鉄道好きといっても、人によって好きなポイントが違っていて、車両が好きな人もいれば、エンジンの音が好きな人もいる。僕にとっては、鉄道の魅力は車窓。天気がいいのはもちろん、雨もまたいいんですよ。

酒井 鉄道は悪天候に強いですしね。雨でも雪でも濡れずに外を見られますから。お任せして委ねる、っていう感じが私は好きです。

六角 「連れていかれる」感は、鉄道ならではでしょう。僕は運転免許を持っていないんですが、誰かと車で旅に行こうとなった場合は、運転手に気をつかわなきゃいけない。

酒井 そうそう。話をふってみたり、飴食べる?とか聞いてみたり(笑)。

六角 助手席では寝ちゃいけない!っていうプレッシャーがあるしね。

酒井 その点、列車の中はわりと自由に動き回れるし、あっち側にいい風景がある!と思ったら反対側に移動することだってできる。

六角 眠くなったら眠ればいい。起きたらまた同じ風景が続いても、むしろ時間の流れを感じたり。僕は列車で寝るのはけっこう好きです。

酒井 私も列車でよく寝るのでしばしば絶景を見逃すんですが、また乗りにくればいいかと思うことにしています。でも前に高千穂線で熟睡してしまい、何も景色を見なかったので、また乗ろうと思っているうちに廃線になってしまいました……。

六角 台風などの自然災害によって、全国各地で廃線になっている鉄道も多いですからね。7月に熊本県が豪雨に襲われたでしょう。僕は肥薩線(上写真)に何度も乗っているから、ニュースで見た時は切なくて。

酒井 私の祖母は鹿児島出身なんですが、女子大に入学するために上京した際、肥薩線に乗ったらしいんです。昔話を聞いていたら「列車がぐるーっと回ってね」って言うから、「おばあちゃん、それはループ線だね」って。

六角 大畑駅周辺のループ線やスイッチバックは名物ですよね。肥薩線は昔からある、もともとの鹿児島本線ですから、大変だろうけど、なんとか残ってほしいです。車窓から見える球磨川沿いの風景も僕は大好きなんです。

酒井 川の風景もいいですが、私は湖も好きなんです。山陰本線の鳥取大学前駅から見える湖山は、正確にいうと日本一大きな池なんですが、すごくいいですよ。あと、北陸本線の余呉駅から見える余呉湖。小さな湖がちらっと見えるのが魅力。一番好きなのは、六角さんがこの前乗った大糸線から見える仁科三湖(右ページ下写真)。3つの湖が次々と見えるんですが、この景色もきれいです。

六角 この間、霧のかかった木崎湖が見えてきた時はぐっときたなあ。まったく観光地化されていない感じもいいですよね。酒井さんがおすすめの鉄道風景を紹介してくれたので、僕も。まずは四国の土讃線。山間部の鉄道で、エッジのきいた川の風景が楽しめます。次に秋田と青森を走る五能線。津軽海峡、日本海、白神山地が車窓から見えて、いわゆる「鉄道旅行」を満喫できる。ナンバーワンは只見線(左写真)。只見川の水流や里山、ブナの深林など、日本の原風景を見られます。

酒井さんの祖母も若い頃に乗った、歴史ある肥薩線。
酒井さんの祖母も若い頃に乗った、歴史ある肥薩線。

熊本県八代(やつしろ)市の八代駅から鹿児島県霧島市の隼人駅を結ぶ鉄道。明治時代からの歴史を持つ。険しい山道が続く人吉駅ー吉松駅はループ線やスイッチバックが名物。

鉄道が歌によく出てくるのは、人生に重ね合わせやすいから。

只見川にかかる鉄橋を走る只見線。秋の紅葉、冬の雪景色など、四季を通じて奥会津の自然を楽しめる。六角さんが歌も作って応援している鉄道。
只見川にかかる鉄橋を走る只見線。秋の紅葉、冬の雪景色など、四季を通じて奥会津の自然を楽しめる。六角さんが歌も作って応援している鉄道。

六角 より早く目的地に着く鉄道も必要だけど、のんびり楽しむ鉄道も、ずっと残していってほしいですよね。

酒井 私は京都へよく行くんですが、新幹線の〈のぞみ〉だと早すぎて。もう少し長く乗っていたいから〈ひかり〉にわざわざ乗るんです。〈こだま〉だと少し遅すぎるんですが(笑)。

六角 今は一部の高級観光列車やサンライズにしか残ってないけれど、普通の夜行列車にも戻ってきてほしいな。車窓は何も見えないけど、確かに走ってる感覚がいい。“花嫁は〜夜汽車に乗って〜♪”っていう歌もあったなあ。

酒井 前に友だちと鉄道カラオケをやったんです。鉄道が出てくる歌しか歌わないっていうルール(笑)。意外とたくさんあるんですよね。

六角 奥村チヨの「終着駅」とか。

酒井 くるりの「赤い電車」とか。車と比べて、鉄道は人生に重ね合わせやすいのかもしれません。

六角 車や飛行機と比べて、鉄道は優しい乗り物です。免許もパスポートもいらない。切符さえ買えば、誰でも受け入れてくれますから。

酒井 本当にそう。

六角 読者の皆さんにも、コロナ禍が終息したら、ぜひ我々がおすすめした鉄道に乗ってほしいです。

昔も今も、名曲の数々に登場する鉄道。

大の鉄道ファンであるロックバンド・くるりの岸田繁さんが作った京浜急行電鉄の歌、「赤い電車」(ビクター…

大の鉄道ファンであるロックバンド・くるりの岸田繁さんが作った京浜急行電鉄の歌、「赤い電車」(ビクターエンタテインメント)。

鉄道について、ゆっくり話そう。【六角精児さん×酒井順子さん 対談】

"花嫁は〜夜汽車に乗って〜♪"で始まる、はしだのりひことクライマックスによる「花嫁」は、1971年に発売され、大ヒット。(JASRAC出2007639-001)

[RANKING 3]六角さんが好きな「自然が美しい路線 3」。

晴れていても、雨でもいい。その時々の車窓の風景が好きです。(六角さん)
晴れていても、雨でもいい。その時々の車窓の風景が好きです。(六角さん)

1.只見線を取り囲む自然の景色

2.五能線から眺める日本海、白神山地の景色

3.土讃線の車窓を流れる吉野川

六角精児(ろっかく・せいじ)さん●1962年、兵庫県生まれ。数々の映画、舞台、TVドラマで活躍。『六角精児の呑み鉄本線・日本旅』がNHK BSプレミアムで不定期放映中。

酒井順子(さかい・じゅんこ)さん●1966年、東京都生まれ。大学卒業後、会社勤務を経てエッセイ執筆に専念。『女子と鉄道』『女流阿房列車』など、鉄道にまつわる著書も。

『クロワッサン』1030号より

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