若者の未来を奪う私。│束芋「絵に描いた牡丹餅に触りたい」
スイスでグループ展に参加した際、交換留学でスイス国内にいた大学の後輩に助っ人に来てもらった。彼はとても優秀で、以前にも私の海外での展示作業に参加してくれたことがあった。
スイスで再会した時は、大学院を間も無く終える頃で、作家としての活動を続けていきたい彼は、悩んでいた。とにかく絵を描き続けたい。そのために貧乏生活でもヒモ生活でも何だってする、という感じで、絵を描くことへのピュアな欲望が見て取れた。
グループ展のオープニングの後、関係者とのディナーの席で、素敵な日本人のご婦人と隣り合わせになった。スイスの高名な作家さんの奥様のようで、気品に満ち溢れていた。話が弾み、私の助っ人が何をやっているのか、という話になり、彼がこれからのことで悩んでいることを話すと、彼女の息子さんの話をしてくれた。息子さんも美術家だそうで、奨学金を渡り歩いて美術活動を続けているという。
その頃、私は、それなりの歳になっても奨学金をもらう美術家の友人に対して多少の憤りを覚えていた頃で、ある程度与えられたなら、奨学金などの開かれた機会は若い人たちに譲るべきだと思っていた。助っ人の彼も、助成金など、学生の時の私には望んでも手に入らなかったものを与えられ、作家活動を続けているように見えた。
私はそのことに多少の嫉妬をしていたのかもしれない。私がご婦人に「私の頃より彼はずっと恵まれています」という話をしたとき、彼女が言った言葉の意味が今、胸をつく。「過去より今が恵まれているからと言って、より良い状況を望まないのは怠慢だ」「あなたは若者の未来を奪うべきではない」というような内容だったと思う。
今、様々な社会的な言論活動が話題になっている。「現状は過去よりマシ」と見えることが多いかもしれない。でも、過去よりもマシだから文句を言うな、というのは、より良い未来を奪う行為だと思う。中堅世代になった私は、社会的に大きな問題になっていることだけでなく、身近な出来事においても、若者の未来を奪うようなことは絶対にしてはいけない。
束芋(たばいも)●現代美術家。近況等については、facebookにて。https://www.facebook.com/imostudio.imo/
『クロワッサン』1029号より
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