「お妾なんてやなこった!」あらくれ女のアナーキーな一代記。『あらくれ』│山内マリコ「銀幕女優レトロスペクティブ」
大正時代に徳田秋声が発表した小説を、1957年(昭和32年)に成瀬巳喜男監督が撮った『あらくれ』。ヒロインの我の強さとタフな生き様が風紀を乱すと危険視されたのか、なんと成人映画にレイティングされた恐るべき傑作です。
養家に決められた結婚が嫌で、祝言の日に東京へ逃げてきたお島(高峰秀子)。酒屋(上原謙)の後妻におさまるも、夫の浮気性に耐えられず即離縁。寒村の旅館で女中として働いていたところ、若旦那(森雅之)といい仲になるが、妾になるのは御免と東京へ。ミシン工場で知り合った洋服屋(加東大介)を見込んで一緒になり店を出すも、こいつもまた甲斐性無しで、そのくせお島と因縁のある女を囲っていることがわかり……。
「あらくれ」とは荒々しいこと、乱暴なこと。映画のタイトルは有名ですが、まさかデコちゃんがあらくれてる張本人だったとは! 気が強く、嫌なものは嫌ときっぱり言い、けっしてめそめそしない。どんな男にもばんばん口答えするし、ぶたれたらやり返します。だってそうやって自己主張しないと、女はどこまでも男に搾取されるから……。終戦から10年以上経っても、男に楯突く女性像はタブーだった日本。自分に正直に生きてるだけで「あらくれ」なんて呼ばれるんだから、女ってつくづく割りに合わない生き物ね。そんなデコちゃんのぼやきが聞こえてきそうです。
公開当時、本作のデコちゃんに勇気をもらい、鼓舞された女性も多そう。それを恐れての成人映画指定なわけですが、フェミ・ヒーローとして再評価される資格の充分にある、非常に現代的なキャラクターです。
どんな役の色にも染まる天才女優デコちゃん。本人の生来の気っ風のよさが随所に感じられる本作はまた格別にイイ。水木洋子脚本ならではのズバッと的を射たダイアローグも冴え、独特のねちねちしたセリフ回しには爆笑&喝采必至。あらくれデコちゃんは、強く生きたい女性たちのロールモデルだ!
やまうち・まりこ●作家。新刊『The Young Women’s Handbook〜女の子、どう生きる?〜』(光文社)が発売中。
『クロワッサン』1028号より
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