もっとも、洋服ってもんを長く着てることは着てますよ――市川房枝(社会運動家)
1977年創刊、40年以上の歴史がある雑誌『クロワッサン』のバックナンバーから、いまも心に響く「くらしの名言」をお届けする連載。今回は、婦人参政権に尽力した人物の言葉を取りあげます。
文・澁川祐子
もっとも、洋服ってもんを長く着てることは着てますよ――市川房枝(社会運動家)
今回は「これが名言?」と思ったかもしれません。でも、どうしても紹介したかったのです。市川房枝さん(1893-1981)は婦人参政権運動を牽引し、教科書にも取りあげられている人物。てっきり歴史の登場人物だと思っていた人が、まさかクロワッサンの誌面に、しかもファッションページに登場しているとは……!
「いつでも同じスタイルの人ふたり」と題する記事で、いつも着ているというスーツ姿を披露。当時、85歳という年齢で、ツイードらしきジャケットをしゃきっと羽織って写真におさまっています。
ではファッションに興味があるのかといえば、〈まったく興味ないですけどね、服は〉というそっけない返事。とはいえ、洋服を着るようになったのが大正9(1920)年というのだから、その頃にしてはかなりハイカラだったに違いないでしょう。
洋装に変えたきっかけは、婦人参政権を求め、議員のもとへ足繁く通っていたときのこと。面会場がひどく寒くて、靴のほうがいいだろうとなって、平塚らいてうさんと2人で初の洋服をこしらえたと語っています。
さらりと言ってのけた言葉の陰には、女性の権利のために闘った歴史が潜んでいたことに感動。ぜひともそのことを書き残しておきたく、ピックアップした次第です。
※肩書きは雑誌掲載時のものです。
澁川祐子(しぶかわゆうこ)●食や工芸を中心に執筆、編集。著書に『オムライスの秘密 メロンパンの謎』(新潮文庫)、編著に『スリップウェア』(誠文堂新光社)など。
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