【歌人・木下龍也の短歌組手】終わりのことを考えて寂しさが襲う。
〈読者の短歌〉
青空をスクロールする指の先にゴミいや違うたぶんツバメだ
(春野さき子/女性/自由詠)
〈木下さんのコメント〉
スマホの写真。青空の数枚をスクロールしていく指先に黒い点。ゴミかと思ってぬぐってみても消えず、それはゴミではなくて、たぶんツバメ。「あっ」と思う瞬間をうまく切り取っています。「指の先」は「指先」でもいいかもしれません。
〈読者の短歌〉
水泳の授業のあとの下敷きとハンディファンがまきあげる髪
(春陽/女性/テーマ「夏」)
〈木下さんのコメント〉
そうか、いまは「ハンディファン」があるんですね。古い映画のように思い出す「水泳の授業のあとの」だるくて心地よい時間。この短歌を読むと、思い出には存在しないはずの「ハンディファン」がまるで当時もそこにあったかのように思い出せます。
〈読者の短歌〉
先細りでも末広がりでもあり見たい方から見るチョココロネ
(砂崎柊/男性/テーマ「パン」)
〈木下さんのコメント〉
僕は頭から食べてチョコが口からはみ出るのも、尾から食べてチョコがパンからはみ出るのも好きです。
〈読者の短歌〉
世界はまだ真実です いもうとが箱を被って笑いつづける
「いつも楽しみながら読ませてもらってます!質問なのですが、木下さんはどういう時に短歌が思い浮かびますか?」
(アナコンダにひき/男性/自由詠)
〈木下さんのコメント〉
VRゴーグルをつけて仮想世界を見ている人、を見ているとき「世界はまだ真実です」と感じるのかもしれない。「箱」の内側に広がる「いもうと」だけの世界。その仮想世界から漏れてくる笑い声は、否応なしにこちらが外側であり、こちらが真実であることを教えてくれるだろう。あ、ご質問ありがとうございます。僕の場合は洗濯物を干しているときやシャワーを浴びているときに短歌のネタを思いつきます。
〈読者の短歌〉
行き道のサービスエリアでパンを買う
帰りのことがすでに寂しい
「私の実体験です。朝ごはん代わりにパンを買って、サービスエリアで食べました。旅先でも何でもないですが、とても良い思い出です。」
(平井まどか/女性/テーマ「パン」)
〈木下さんのコメント〉
往路を走りながら、ああ数時間後にはもう帰路である対向車線を走ってるんだなって思うと寂しくなりますよね。僕の表情を見た同乗者になんだつまんないのかと言われて、いや終わることがすでに寂しいくらい楽しいんだよって思ったり。予知した寂しさって、実際に自分を訪れる寂しさより大きいってことが多々あります。
『短歌組手』は今回で一区切りです。次の短歌応募の告知をお待ちください。
告知はクロワッサン公式ツイッターを通して行います。
木下龍也
1988年、山口県生まれ。2011年から短歌をつくり始め、様々な場所で発表をする。著書に『つむじ風、ここにあります』『きみを嫌いな奴はクズだよ』がある。
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