再開した落語会での噺家の悩みとは?│柳家三三「きょうも落語日和」
イラストレーション・勝田 文
世の中は少しずつ、日常を取り戻したい雰囲気がありつつ、以前とは違った目に見えない暗黙のルールも感じます。電車の中や飲食店では元通りの距離感や空気に馴染める人とそうでない人のズレを感じたりしますから。
寄席や落語会も一部再開されました。私は出番の予定がありませんでしたが、NHKのニュースで6月1日に営業を始めた寄席の様子を流していました。お席亭の「しっかりと対策をしていますから安心してお越しいただきたい」というコメント、お客さまの「生で楽しめるのはうれしい。けれど人数を制限したため空席のある寄席は少し淋しい」というお声。もっともだなと思ってたら落語家の「ぎっしり入っちゃいけないってねぇ、元々寄席にはそんなにお客さん来ないんだから」……これがホントでもあります。いいね、やっぱり暢気な本音は。
久しぶりに噺家仲間とも会いました。「どうしてた?」という挨拶とともに「落語界じゃ誰も感染してないの? ホントかね、誰かかかってるけど気づいてないとか」なんて軽口も聞かれました。そんな他愛もない会話の中で多くの仲間が口にしたのが「正座してないから久しぶりに一席やったら足がしびれちゃってさ」という話。たしかに私も正座する機会は減りましたから、これは感じておりました。やはり日頃20分、30分と高座での正座で慣れていたものがなくなると、素人同様に足のしびれる落語家が続出しそうです。我慢できずに椅子に座ってなんて〝新しい生活様式〟では落語日和も心もとないものになってしまいますね。
柳家三三(やなぎや・さんざ)●落語家。公演情報等は下記にて。
http://www.yanagiya-sanza.com
『クロワッサン』1025号より
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