【歌人・木下龍也の短歌組手】亀が足の遅さを自覚する時。
〈読者の短歌〉
飼い主の顔を覚えた亀だけが足の遅さを自覚している
「昔、飼い主によく懐いているカメの映像をテレビで見たことがあります。なんとご主人の後追いをするのです。このときもっと速く歩けたら、ともしかしたら思っていたかもしれないなぁと想像しながら作ってみました。」
(平井まどか/女性/テーマ「ペット」)
〈木下さんのコメント〉
せつない。隣の銀河までの距離を知った科学者も、光の遅さを思い知らされているのかもしれません。
〈読者の短歌〉
二階から目薬を差し出している私ではない方の人間
(からすまぁ/女性/テーマ「私」)
〈木下さんのコメント〉
「二階から目薬」ということわざには目薬を差す役と目薬を差される役がいて、ことわざの意味としては差す役を「私」で想像するはずなのですが、差される役の、階下でこちらに顔を向けて、目を見開いているあなたは、だれ?ってことですよね。え?だれ?だれなの?え?これ怖い話だったんですか?
〈読者の短歌〉
そのツケをいつか払わせられるからいくら休んでいてもいいんだよ
(サラダビートル/自由詠)
〈木下さんのコメント〉
ありがとう。わかった。わかったからリアルな怖い話はやめてくれ。
〈読者の短歌〉
カラカラと回し車を走る君 私に似ててかわいそかわいい
「以前ハムスターを飼っていたのですが、その頃私は新入社員で一生懸命で空回りばかり。そんな自分とハムスターが似て見えたことを思い出し作りました。」
(わもとかこ/女性/テーマ「ペット」)
〈木下さんのコメント〉
「かわいそかわいい」でもう勝ちです。こんな表現おれにはできない。
〈読者の短歌〉
鍋のままラーメンすする左手が耐え切れないと泣き出しそうだ
(さとみん/女性/テーマ「私」)
〈木下さんのコメント〉
丁寧な暮らしとは真逆の食べ方。鍋の取っ手を握る左手の震えに自分自身の心境をうまく重ねています。でも「ラーメン」ってなぜか「鍋のまま」食べたほうがおいしいですよね。床にあぐらをかいて。鍋のふちでくちびるを火傷したりしながら。
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