ライブ配信で感じたお客さんの姿。│柳家三三「きょうも落語日和」
イラストレーション・勝田 文
三月中旬に中止となった落語会の代わりにYouTubeで落語のライブ配信をしたことは当連載にも書かせていただきました。一日も早く客席の皆さんに直接お会いしたいという思いもむなしく、ご承知のとおり情勢は悪化の一途をたどるばかり。今ではほぼ全ての落語会がなくなり、先号でお話しした玉屋柳勢さんたち新真打の寄席の披露も興行途中で中止という前代未聞の事態となっています。
やむを得ず、一度だけのつもりだったライブ配信も今では毎週やるようになり、リスクを避けるためにたった一人のスタッフが設置したカメラの前で他の出演者も頼まず一席演じる完全な“無観客落語”です。
目の前にお客さんがいないのは、お世辞にもやりやすいとは言えない環境です。落語は暗記した科白をただしゃべるのではなく、客席の雰囲気を感じとって同じネタでも毎回少しずつ演じかたが変わります。妙な言いかたですが、高座で発する言葉は、半分はお客さんに決めてもらっているんです。
そのお客さんがいないーーこれは無理かなと思ったら、カメラの向こうに楽しみにしてくれているかたがたがいると、なぜかはっきりと、驚くほど確かに私には感じられた。それは思いも寄らぬうれしい感覚でした。そうすると目の前に噺の中の風景がみるみる現れて、落語を演じるというより、噺の世界を夢中で楽しんだような時間でした。もちろん会場で皆さんの前でしゃべるのがいちばんです。けれどこの形もナシじゃありません。今はもうしばらく、それぞれのお家のあなたと落語日和をともに楽しませていただきます。
柳家三三(やなぎや・さんざ)●落語家。公演情報等は下記にて。
http://www.yanagiya-sanza.com
『クロワッサン』1022号より
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