『修羅雪姫』世界初? 日本が誇る、マンガ原作の女性ヒーロー映画! │ 山内マリコ「銀幕女優レトロスペクティブ」
タランティーノが『キル・ビル』でオマージュを捧げたことで知られる『修羅雪姫』。「現代の絵師」と謳われた上村一夫の漫画を、1973年(昭和48年)に藤田敏八が映画化。
’70年代の寵児2人による劇画の世界に、上村タッチを具現化したような美しき梶芽衣子が君臨し、復讐に燃える!
時は明治7年。修羅雪姫こと鹿嶋雪(梶芽衣子)は、狼藉者に夫と子を殺され、遺恨を胸に獄中出産した母、小夜(赤座美代子)の命と引き換えに生を受ける。育ての親(西村晃)に剣術を仕込まれ、仇討ちだけを生きる糧とする雪。彼女の復讐劇は、物書きの足尾龍嶺(黒沢年男)によって小説化され、ついに狼藉者の首謀者が姿を現す……。
怨みを背負って生きていく修羅の子、雪。演じる梶芽衣子の出で立ちのキャッチーな美麗さに、とにかく惚れ惚れしてしまいます。潔いオールバックで強調された怜悧な額、口数の少なさを補って余りある、メラメラと怒りをたたえた射る眼差し。蛇の目傘に仕込んだ刀を抜き、白地の着物に返り血を浴びようと表情ひとつ変えず華麗に立ち回る雪の、完成されたキャラクター性たるや! マンガ原作だからこその振り切れた設定と、眼光で人を殺せそうな梶芽衣子の緊張感みなぎる佇まいがフュージョンした最高の女性ヒーロー、それが修羅雪姫なのです。
2010年代、ようやくハリウッドで、『ワンダーウーマン』や『キャプテン・マーベル』など、女性ヒーローが主役を張るアメコミ映画が作られるようになりました。しかし日本にはここまでスタイリッシュな女性ヒーローが、なんと47年前から存在していた! 裏を返せばそれだけ女性が理不尽な目に遭い、怒りや怨みを腹に募らせるお国柄ということか?
だからこそ修羅雪姫が人を斬れば斬るほど、血飛沫を浴びれば浴びるほど、得も言われぬ快感、解放感に、思わず喝采を送りたくなる。修羅雪姫は、日本が世界に誇るべき、女性ヒーロー映画のオリジンなのです。
山内マリコ(やまうち・まりこ)●作家。新刊『山内マリコの美術館は一人で行く派展』(東京二ユース通信社)が発売中。
『クロワッサン』1020号より
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