くらし

『グランドシャトー』著者、高殿 円さんインタビュー。「女性が読んでストレスのない話にしたかった」

  • 撮影・黒川ひろみ(本・著者)
大阪京橋のキャバレー『グランドシャトー』に流れ着いたルーと、ナンバーワン真珠との、昭和から平成、30年の物語。文藝春秋 1,600円
高殿 円(たかどの・まどか)さん●1976年、兵庫県生まれ。現代が舞台の作品から時代物まで、幅広い作風とストーリーテリングの巧みさで人気を得る。『トッカン 特別国税徴収官』などドラマや舞台化の作品も。『政略結婚』『戒名探偵 卒塔婆くん』ほか著書多数。

「こんな女の人たちの暮らしがあったらいいな、というのを今回は書きました。やなことを一切描かずにどこまで物語が書けるやろか、という気持ちがあって」

と、高殿円さん。語られるのは、ルーと真珠、温かくも不思議な絆で結ばれた、二人の女たちの日々である。
出会いは、高度経済成長期のただ中、昭和38年の大阪。やむにやまれぬ事情で故郷を離れた家出少女ルーは生活に行き詰まり、大川の橋の上で空腹を抱え佇んでいた。そこへ突然「食べる?」と差し出されたせんべいの袋。振り返ると見知らぬ女がおり、二言三言交わし去って行く。すぐ後、たまたま飛び込んだ京橋の名物キャバレーでルーは働き始め、女が実はナンバーワンホステス、真珠であると知り、いつしか店の借り上げた長屋で共に暮らすようになる。

この長屋とキャバレーが、女たちの暮らしの主な舞台だ。当時のキャバレーは、歌にダンス、生バンドの演奏といったショーがあり、着飾ったホステスたちがフロアを闊歩する大人の社交場だった。

地蔵に空襲から守られた、そんな戦争の記憶を残す街。

気性が真っ直ぐすぎてトラブル続きだったルーは、人を楽しませる才能を開花させ、キャバレーのナンバーツーに。女たちの暮らしはさぞや華やか……と思いきや、二人の住まいは京橋からも近い中崎町にある、質素な長屋のままだ。

「この一帯は、中心街の梅田からも歩いて行けるのに、古い銅板葺きの長屋なんかがまだ残っていて、なんでここだけ? という空間が今でも広がっているんです」
古い民家をリノベーションしたカフェや美容室が立ち並ぶ中崎町は、今や人気のエリア。けれど、周囲が空襲で焼けてしまったなか、なぜこの一画だけ残ったのだろう。
「ここらに多く残る地蔵をつないでいくと円になっていて、そこで焼夷弾の火が止まって焼け残ったのだと聞きました。だから、空襲からお地蔵さんに守ってもらった意識がものすごく高いんですよね」

実際に現在も行われている地蔵盆へ参加し、地元のおばあさんたちから聞いた話も物語に盛り込まれた。色濃い戦争の記憶を経て、時代は高度経済成長期からバブル、その崩壊から平成へ。そうした流れの中で変わりゆくもの、変わらないもの。土地の文化や記憶が、物語に独特の彩りを添えている。
一方、移り行く時代を力強く生き抜いていくルーと、日常を淡々と営む真珠と。その暮らしぶりは、令和というこれからの時代にむしろしっくりくるようだ。
「つらくても楽しくても『おなか、すかへん?』とだけ聞いてくれる真珠、彼女を“ねえさん”と慕うルー。わかっているけど、わきまえて聞かない、自制のある密な暮らし。『こういうのもいいなあ』というライフスタイルのひとつとして証明できたらと思いました」

しんどいことがあっても日々続いていく暮らしの中で一番大事なこととは? ひたすら楽しく読み終えてふと、考えさせられる。

『クロワッサン』1018号より

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