漢字について、ゆっくり話そう。【笹原宏之さん×篠宮 暁さん 対談】
撮影・青木和義 スタイリング・山崎康洋(篠宮さん) 文・嶌 陽子
「鬱」の書き方を編み出さなかったら 今日の先生との対談もなかったかも。(篠宮さん)
皆の心を捉えたものが正しい漢字として広まっていく。
笹原 篠宮さんの檸檬の書き方、「檬」の「蒙」はそのままなんですね。
篠宮 最近「蒙古タンメン」でよく見かける字なので、皆分かるだろうと。
笹原 なるほど。「蛯」という字を読める人が増えたのも、人気モデルの蛯原友里さんのおかげだった。教科書に載っていなくても、興味があれば自然と読めるようになる。素敵なことです。
篠宮 僕も、「彅」の字は草彅剛さんから覚えました。漢字を知るチャンスは、世の中に溢れているっていうことですね。でも先生は、もう見たことがない漢字なんてないのでは?
笹原 いや、街中で「これは何だ?」と思う漢字に出合うことも多いですよ。間違って書いたのかなという字もあるけれど、誤字というより、人柄が出た個性的な字だと捉えています。
篠宮 先生は寛容ですねえ。
笹原 そうやって書いたのには理由があるかもしれないし、もしその字が皆の心を捉えたら、世の中に広まるかもしれないでしょう。今ある漢字もそんなものが多いんですよ。たとえば「躾」って何と読むかご存じですか?
篠宮 「しつけ」ですよね。
笹原 さすが漢検2級ですね! この字は室町時代に小笠原流が使って広めたものなんです。コスモスを「秋桜」と当て字で書くことも、山口百恵さんの歌がきっかけで一般的になった。上から使えと命令されたものではなく、皆の心を捉えたものが「正しい漢字」となって広まるんです。
篠宮 漢字って民主的なんですね。
笹原 篠宮さんのユニークな覚え方も然り、書き方や使い方が多少違っていても目くじらを立てず、個性として受け入れる。そんな世の中になってほしいですね。暮らしや地域が変われば、漢字も変わるのは当然なんですから。
篠宮 今の僕たちが使っている漢字も、少しずつ変化してきたものですしね。
笹原 漢字の形や成り立ちも面白いけれど、それを使い育ててきた人の気持ちが見えるのが一番ワクワクする。私は結局、漢字を通して日本人のことを知りたいんです。
篠宮 奥深い! 僕も最初は漢検に合格することばかり気にしていたんですが、途中から漢字を書けるようになりたいという気持ちのほうが強くなってきて。書けると気持ちがいいし、自分のものになった気がする。いつか全部の漢字を制覇したいですね。
秒で覚える漢字(3)れもん
『クロワッサン』1015号より