毎日使うものこそ、丁寧に作られたものを探したいよね――水野正夫(ファッションデザイナー)
文・澁川祐子
毎日使うものこそ、丁寧に作られたものを探したいよね――水野正夫(ファッションデザイナー)
水野正夫さん(1928-2014)は、ファッションデザイナーの草分け的存在。『着るということ』などのファッションに関する著作も数多く遺しました。
水野さんいわく、洋服屋は<人間が人間にするサービス>。着る人にとって最適なものを考えてあげるのが第一で、着る人を圧倒するような自己主張の強いものをつくってはいけない。そのためにデザイナーは、洋服のことばかりを考えるのではなく<他から自分を豊かにしていかなくちゃならない>と語ります。
その点、水野さんが大切にしてきたのはやきものの世界。凝り性の父親のもと、やきものに囲まれて育ち、中学時代から古道具屋に通っていたという筋金入りです。
買うのは、もっぱら使うもの。飾るものは好きじゃないといいます。<人間が使っていないと、陶器だってカサカサして命がなくなりますよ>という言葉には、同じやきもの好きとして大いに頷くところ。
そんな水野さんがふだんご飯を食べるのに使っているのは、抹茶々碗。抹茶々碗は、作家が丁寧につくったものであり、手にもすっとなじむもの。そういうものこそ、日々使うのにふさわしく、<その毎日の繰返しが、心の豊かさとか、仕事にも還元するんです>。
ほかにも朝鮮の壺を筆立てにしたり、備前焼の湯呑でボジョレーのワインを飲んでみたり。気に入ったものを自由な発想で使いこなすこともまた、「心の豊かさ」を育むことにつながっているに違いありません。
※肩書きは雑誌掲載時のものです。
澁川祐子(しぶかわゆうこ)●食や工芸を中心に執筆、編集。著書に『オムライスの秘密 メロンパンの謎』(新潮文庫)、編著に『スリップウェア』(誠文堂新光社)など。
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