歩いて実感した、東京は落語のふるさと。│柳家三三「きょうも落語日和」
イラストレーション・勝田 文
最近、心がけて歩く機会を増やしています。とくに健康を気づかっているわけではなく、使い始めて一年半たったスマートフォンに、万歩計の機能があることに今さら気づいて「おもしろそうだから毎日どのくらい歩くか試してみよう」ってな按配です。
日常の暮らしでの歩数も含めて「万歩計ってくらいだから一日一万歩を目指そうかな」と始めてみたら、達成するには意識的に歩かざるを得ないことがわかりました。
噺家稼業、日本中に公演にうかがいますから、移動距離は相当ですが、歩かないんですよ。
おじゃました街の駅や空港から車で会場入りして楽屋でノソノソ、仕事中は座ったまんまですし、終わればそのままトンボ返り。移動距離が1000km超なのに万歩計は1000歩以下、なんてことも。
そこで自宅から最寄りの駅ではなく、ひと駅・ふた駅先まで、寄席から何駅か歩いてみよう……。そんな心がけで数ヶ月、思わぬ街角で「あれ? この町名、落語の中に出てきたな」「この店、あの噺の舞台になった……」なんて、出会いがあるんです。もちろん落語を演じるうえで、その舞台となったところを訪ねて歩く経験はしたことがありますが、偶然の発見はまた違ったうれしさがあり、あらためて東京は落語のふるさとだと実感できるのです。
仲間には“歩きながら落語の稽古をする”という人もけっこういるんですが、私はそれが全くできないタチ。噺家になって四半世紀以上、ようやく“歩いて落語日和”を体験できて、ごきげんな今日このごろです。
柳家三三(やなぎや・さんざ)●落語家。公演情報等は下記にて。
http://www.yanagiya-sanza.com
『クロワッサン』1013号より
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