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コーヒーについて、ゆっくり話そう。【狩野知代さん×大西泰宏さん 対談】

コーヒーの焙煎士と紅茶専門店店主。
似ているようで大きく違う、それぞれの奥深さについて話します。

撮影・辻本佳祐 文・平井莉生

コーヒーにまつわる「今」のあれこれを教えてください。(大西さん)

語りだしたら相手が驚くほど止まらないんです。(狩野さん)

(左)狩野知代さん 焙煎士、グラウベルコーヒー店主 (右)大西泰宏さん Uf-fu(ウーフ)店主 「はじめまして」の2人だけれど、HPなどを見てお互いの理念に共感し、この日を楽しみにしていた。
(左)狩野知代さん 焙煎士、グラウベルコーヒー店主 (右)大西泰宏さん Uf-fu(ウーフ)店主 「はじめまして」の2人だけれど、HPなどを見てお互いの理念に共感し、この日を楽しみにしていた。

コーヒー? 紅茶? ほっとひと息つきたいとき、あなたはどちら派だろうか。

コーヒー焙煎士で東京・世田谷の『グラウベルコーヒー』店主の狩野知代さんと、兵庫・芦屋の紅茶専門店『Uf-fu』店主の大西泰宏さん。熱い思いで店を開いた双方のプロフェッショナルが、それぞれの魅力をひもとき語り合う。まずは大西さんが狩野さんの店を訪れ、コーヒーの「今」について考えてみる。

大西泰宏さん(以下、大西) 私、実はコーヒーを飲めるようになったのはここ4年くらいで、全くの初心者なんです。でも狩野さんが素材のルーツや生産者とのリレーションシップを大切にしているところは、私が紅茶を通してやっていることや考えとも共通していて、お会いできるのをとても楽しみにしてきました。

狩野知代さん(以下、狩野) それはうれしいです! 私の店には人や環境に優しいもの、実際に農園を見に行ったところなど、ご縁のある生産者の豆を置いています。豆の卸がメインで、生豆を信頼できるバイヤーから購入し、私が焙煎しています。

大西 紅茶との大きな違いは、コーヒーは生豆という素材をいかようにでも自分好みに仕上げられるというところだと思っていて、そこは紅茶にはない面白さです。同じ生豆からでも、焙煎方法や抽出方法によって異なるフレーバーを引き出せる。自分の手によってアレンジできて、そのバリエーションが無限にあるというのは好奇心が刺激されますよね。

狩野 確かに、コーヒーの掛け算は無限大ですね。実際、同じ生豆でも焙煎の技術によって味が大きく変わるのが面白いです。紅茶は、その産地で発酵まで行われたものを輸入するのですよね。

大西 そうですね。こちらでブレンドをすることもありますが、基本的に紅茶は完成品を輸入しています。

大西泰宏(おおにし・やすひろ)さん●Uf-fu(ウーフ)店主。兵庫県出身。中国留学を経て、2002年、兵庫県芦屋市にて『Uf-fu』を創業。茶葉の販売に加え、ティールームを併設する。2018年、東京・青山に2号店を開店。
大西泰宏(おおにし・やすひろ)さん●Uf-fu(ウーフ)店主。兵庫県出身。中国留学を経て、2002年、兵庫県芦屋市にて『Uf-fu』を創業。茶葉の販売に加え、ティールームを併設する。2018年、東京・青山に2号店を開店。

札幌で独自に発達した喫茶文化が、狩野さんのコーヒー愛を育んだ。

大西 狩野さんがコーヒーの美味しさに目覚めたのはいつだったのですか?

狩野 私は小学4年生のときにコーヒーにハマってしまったんです。

大西 それは驚きです、早いですね!

狩野 そうですよね(笑)。私は札幌出身で、当時から札幌には独自の喫茶店文化がありました。寒い地域だからか、みんな深煎りの濃いコーヒーを飲みたがるんです。私の実家の周りにも喫茶店が何軒かあって、ずらりと並んだ豆を量り売りしていました。レトロな秤で量って、その場で挽いてくれるんです。豆の香りや挽く音、そのリズムや所作といったものに、小学生ながら魅了されてしまって。そこからコーヒーが大好きになりました。

大西 最初の体験からして、素敵だったんですね。私はサラリーマンとして働いていたときに、美味しくないコーヒーを渋々飲んで、苦手意識を持っていたのに……(笑)。逆にそれだけ良い喫茶店が周りにあって、「自分でやってみよう」と、自家焙煎を始めたのはどうしてだったんですか。

狩野 上京することになり、東京には美味しいコーヒーが飲める店がたくさんあるだろうと期待していたら思ったほど多くなく、家の周りにもなかった。「だったら生豆から自分で焙煎したほうが美味しいコーヒーが飲める」って考えたんですね。1998年当時はネットも盛んではなくて、本を買って独学で勉強です。手網焙煎機を使った焙煎から始めて、今でも新宿にある『ヤマモトコーヒー店』というところで生豆を手に入れていました。

狩野知代(かの・ともよ)さん●焙煎士、グラウベルコーヒー店主。北海道出身。焙煎士。2005年、『グラウベルコーヒー』を開業する。著書に『休みの日には、コーヒーを淹れよう。』(藤原ゆきえさんとの共著)などがある。
狩野知代(かの・ともよ)さん●焙煎士、グラウベルコーヒー店主。北海道出身。焙煎士。2005年、『グラウベルコーヒー』を開業する。著書に『休みの日には、コーヒーを淹れよう。』(藤原ゆきえさんとの共著)などがある。

大西 自分で飲むために焙煎していたところから、自分の店を持ち、焙煎士として多くの店に豆を卸すようになるまでには何があったのですか。

狩野 手網焙煎をしていたときから、「コーヒーを仕事にするんだ」って漠然と思ってはいたんです。まずは自宅のガレージで始めて、それから店を持ち、本を出版したことも広く知っていただくきっかけになりましたね。

大西 (店内にあった狩野さんの著書を手に取り)どうして出版を?

狩野 私がコーヒーへの想いを書いていたブログがフリー編集者の藤原(ゆきえ)さんの目に留まり、共著で本を作ることになって。その取材の一環で、憧れていた標交紀(しめぎゆきとし)さん(吉祥寺の名店『もか』の店主。現在は閉店)に会いに行きました。イエメンとエチオピアのコーヒーをとても大切にしていた彼の話に感銘を受けて「この人と同じ豆を焼こう」と心に誓ったんです。

大西 そうだったんですね。私が4年前にコーヒーを飲めるようになったきっかけも、エチオピアの「イルガチェフェ」というコーヒーを飲ませてもらったこと。感動で震えました。「自分はこれまで良いコーヒーを知らなかっただけなんだ」って。

狩野 「イルガチェフェ」は柑橘のフレーバーがあって、とても華やかで、フローラルでいて上品。キラキラしたイメージです。エチオピアのコーヒーが、大西さんの苦手意識を払拭したんですね!

一杯ずつハンドドリップする狩野さん。店を開けているとき以外は、豆を焙煎するための時間だ。
一杯ずつハンドドリップする狩野さん。店を開けているとき以外は、豆を焙煎するための時間だ。
狩野さんが焙煎した豆は常時約8種類を揃えている。1週間で全て新しいものに入れ替わる。
狩野さんが焙煎した豆は常時約8種類を揃えている。1週間で全て新しいものに入れ替わる。
パッケージのプリントはアーティストがそのコーヒーの味からイメージした焦がしアート作品。
パッケージのプリントはアーティストがそのコーヒーの味からイメージした焦がしアート作品。
一杯ずつハンドドリップする狩野さん。店を開けているとき以外は、豆を焙煎するための時間だ。
狩野さんが焙煎した豆は常時約8種類を揃えている。1週間で全て新しいものに入れ替わる。
パッケージのプリントはアーティストがそのコーヒーの味からイメージした焦がしアート作品。

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