贅を尽くした古代社会の芸術品の数々。東京国立博物館 『人、神、自然−ザ・アール・サーニ・コレクションの名品が語る古代世界−』
文・知井恵理
アラビア半島東部にあるカタールの王族、シェイク・ハマド・ビン・アブドラ・アール・サーニ殿下のコレクションから、古代社会に由来する世界各地の芸術品を厳選した本展。
「地中海地域からアジア、アフリカ、中南米までの、様々な時代の美術品を横断的に鑑賞できる展示は珍しく、見どころのひとつです」(東京国立博物館研究員・小野塚拓造さん)
第一章は、統治者である王や有力者などの「人」関連の工芸品が並ぶ。
「エジプトで出土した王像の頭部は、ハトシェプスト女王またはトトメス3世を表したものと推測され、赤碧玉を削って磨き上げた一品です。一方、マヤ文明が興った中米では翡翠をふんだんに用いた仮面が作られています。嗜好やデザインは異なりますが、貴重な素材を高い技術で加工した芸術品で自らの権威を示していた、という共通点がうかがえます」
第二章では、神像や精霊像、聖なる儀式に使われた調度品など「神」に関連する作品を展示。雪花石膏を用いた浮彫の彫像は、豊饒を司る女神のような神々しさを感じさせ、古代の人々は像の前に頭を垂れ、祈りを捧げたのでは、と想像がふくらむ。
「髪型や豪華な装身具などから、古代ローマの文化に倣ったエリート層に属する女性の肖像といえます。また儀式や祭祀に使う道具や奉納品は、神々を敬いその加護を得ようとしてきた人類の歴史を伝えてくれます」
第三章では、主に動物の形を模した工芸品が展示され、人々が自然界をどう認識してきたかを探る。
「力強さを象徴するヤギから愛らしいクマまで、動物たちをよく観察し、また自然界の力にあやかろうともしていた痕跡が読み取れるでしょう」
発掘や研究の途上にある中央アジアやアラビア半島の芸術品が多数展示されているという意味でも貴重な本展。アール・サーニ殿下の協力の下、選りすぐりの117件を総合文化展の観覧料で鑑賞できるこの機会に、贅沢な芸術品の数々に目を奪われながら古代への旅を楽しみたい。
東京国立博物館
〜2020年2月9日(日)
東京国立博物館 東洋館3室(東京都台東区上野公園13-9) TEL.03-5777-8600 賚9時30分〜17時(金・土曜〜21時。入場は閉館30分前まで) 月曜(1月13日は開館)、12月26日〜1月1日、1月14日休館 料金・一般620円(C)The Al Thani Collection
『クロワッサン』1012号より
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