北極について、ゆっくり話そう。【石川直樹さん×阿部雅龍さん 対談】
実はこんな世界が広がっていました。
撮影・内田倫紘 文・嶌 陽子
先住民のいないスヴァルバール諸島には、今、世界中から人が集まり、とても多国籍。(石川さん)
サンタクロースの秘密基地がありそうなスヴァルバール諸島。
阿部 北極圏のなかで一番好きな場所を挙げろと言われたら、僕はグリーンランドのカナックですね。さっき話に出たシオラパルクの村長・大島さんの娘であるトクさんご夫婦が住んでいるんです。彼女はプロのハンターで、僕は3年くらい前に彼女の家に1カ月ほど居候させてもらいました。地元の人たちとも仲良くなったので、特別な思いがあって。イヌイットの文化がまだ残っている村です。
石川 僕は、訪れた場所はどこも大好きなので、一番は選べないですね。強いて言えば、思い出深かったのはスヴァルバール諸島かな。夏と冬、両方行ったしね。ここはすごく独特です。ほかの北極圏の地域と比べて歴史が浅いし、先住民もいない。今は世界中から人が集まっていて、ものすごく多国籍。
阿部 世界中の植物の種子を冷凍保存している種子銀行もありますね。
石川 どこか不思議な雰囲気があって、サンタクロースの秘密基地があるとするならこんなところかも、と思わせる場所。でも、ほかの地域もすごくいいですよ。アラスカも大好きだし。
阿部 アラスカはどの辺りに行かれたのですか?
石川 先ほどのシシュマレフや、ノーム、
コッツビューなど、いろいろ行きました。
阿部 いいな。僕の憧れの地です。
石川 カナダのマッケンジー川沿いの村にも行きました。イヌビックやタクトヤクタック。
阿部 あの辺りは確か、村と村をつなぐ道がないんですよね。
石川 僕が冬に行った時は、凍った川の上を車で移動しました。夏はヘリコプターなどしか手段がないですね。
阿部 僕は次に北極圏に行くなら、ブルックス山脈に行ってみたい。星野道夫さんも本に書いていますけど、ブルックス山脈は、春にカリブーの大移動がある。山歩きとかしながら、1カ月くらい暮らしたいです。
石川 僕は19歳の時にユーコン川の源流を出発してカヌーで途中まで下ったんです。その時の夢の続きというか、源流からベーリング海の河口までの川下りを最後までやり遂げたいですね。毎年少しずつ続けていて、今年も行ってきたけど、景色や水質、流域の暮らしが少しずつ変わってくるんです。ひとつの川を通して、流域の人たちの暮らしぶりを見たくて。
阿部 ユーコン川周辺の景色は本当にきれいですよね。
石川 北極圏は飛行機を乗り継げば、基本的にどこにだって行けるよね。
阿部 僕が好きなグリーンランドのカナックも観光におすすめ。イヌイットらしい生活の様子をまだ見ることができます。イルリサットで氷河観光してから行くといいかも。皆さんにもぜひ北極を訪れてほしいですね。
石川直樹(いしかわ・なおき)さん●写真家、世界中の辺境から都市まであらゆる場所を旅しながら作品を発表し続けている。『極北へ』(毎日新聞出版)など著書や写真集多数。
阿部雅龍(あべ・まさたつ)さん●極地冒険家。2019年1月、日本人初踏破の「メスナールート」による南極点単独徒歩到達を達成。北極圏でも度々単独徒歩を行う。人力車夫としても活動。
『クロワッサン』1011号より
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