カエルの帰りを待つ!?│山口恵以子「アプリ蟻地獄」
イラストレーション・勝田 文
放浪癖のあるカエルを支援しながら、帰ってくるのを待つゲーム。
もう少し細かく説明すると、プレイヤーはお弁当や道具やお守りなどを買ってカエルの旅の準備をする。そしてカエルが家を離れたら、後はひたすら帰りを待つ。
カエルは気が向いたら旅先から写真を送ってくれる。お土産を持って帰ってくることもある。
留守中、カエルの友達のまいまいが訪ねてきたら、お土産をご馳走すると、喜んでクローバーをくれる。
ちなみにこの世界の通貨はクローバーなので、カエルの留守中、庭でクローバーを摘んで蓄えておき、お買い物の費用に充てる。
担当編集者の感想は「『時代屋の女房』のカエル版」だった。私もそれに影響されて、カエルの名前を「マサコ」と付けてしまった。
しかし、ゲームを続けるうちに「ン?」と思い始めた。これは『時代屋の女房』と言うより、日本芸能文化の古典的なパターン、「気まぐれで身勝手な男に尽くして、ひたすら帰りを待つ女」じゃないか。
そうだ、このカエルはマサコじゃない、マサオだ! 「芸のためなら女房も泣かす」「剣の道に女は邪魔」「渡り鳥に女は要らねえ」云々。腐るほど聞いたよ、そのセリフ!
今、何世紀だと思ってんだよ!
カエル相手に逆上した自分が恥ずかしい。でも、山口百恵も歌っていた。「女はいつも待ってるなんて 坊や、いったい何を教わってきたの?」
そう、男女問わず、伴侶を大切に出来ない相手とは別れた方が良い。
山口恵以子(やまぐち・えいこ)●作家。近著に『夜の塩』(徳間書店)。
『クロワッサン』1011号より
広告