仲野さんは中学校教師を務める傍ら小説を書き続け、この作品でデビューを果たした。作品を書く原動力は何だったのか?
「まず、ディストピア文学を書きたいという思いがありました。それに、生徒と接していて、今の子どもたちは苦しそうだなと。インターネットが彼らの生活を変えた、と感じるふしがあって」
物語におけるこの国では、ひとびとの直接的な交流は減り、オンラインでつながっているほうが気楽だ。結婚して家族をつくることはもう一般的ではない。出生率は低下し、ついには宗教も失われた。
「死ね」「死にたい」、SNS上に垂れ流されるネガティブな言葉は他国の3倍にのぼる。
「わたしはスマホやパソコンが人間性を失わせている、とは思っていません」
良いもの、便利なもの、誰だって、そういう思いで使っているし、それが本来の道具のあり方。ただ、
「何でこんなに簡単なのか、と思います。誰かとつながるって、本当はすごくエネルギーがいることですよね。すぐ手に入るものはすぐ捨てられるというか。コミュニケーションの拡大、それ自体は悪いことではないのですが……」
いいね、がたくさん欲しい。自分のほうがフォロワーが多い。そういうことでマウントを取り合う、質より量のコミュニケーション。
「それでは、たくさんとつながっても、心は渇いていく一方ではないか」
チップを頭に埋められなかったキカのピアノは、プロを目指すも叶わず、葬式会場の背景に溶け込んでいる。誰にも聴かれないのは慣れっこだが、当のキカ自身がすでに自分を選ぶことを諦めている。
「自分が自分の主体となって生きることはどういうことか。ラストはそんな思いで書きました」
消滅しようとしているある国とは、さて、それはどこなのか?