小泉武夫さんが語る魚食、「極上の味わいはアラにあり!」
撮影・青木和義(小泉さん)、谷 直樹(商品) スタイリング・高島聖子 文・嶌 陽子
ミネラルやコラーゲンなど、栄養素もたっぷり。
味だけではない。栄養という観点からも、アラは優等生だ。
「身の主な栄養素はたんぱく質でしょう。アラはそれだけじゃない。カルシウムやマグネシウム、リンなどのミネラルが豊富なんです。それからコラーゲンも多い。活力源のアミノ酸やペプチド、ビタミン類もたっぷりです」
小泉さんの肌に張りがあり、75歳の今もなお、元気であちこちを飛び回っているのは、普段からアラ料理を食べているからなのだろうか。
「私はね、行きつけの寿司屋に行くときは、小さなクーラーボックスを持っていくんです。お店の人も私がアラ好きなのを知っているから、とびきり新鮮なアラを分けてくれるんですよ」
そうして手に入れたアラを使って、“粗のごった煮”を作ることもあるという。4〜5種類の魚のアラをじっくり煮込んでから漉す。味付けは塩だけ。
「できたスープをすすると、おいしくて舌がしびれるんです。さらに、このスープを容器に入れて冷蔵庫で一晩冷やすと、翌朝、透明の上品な煮こごりができる。これをスプーンですくって、炊きたてのごはんの上にのせ、醤油をタラッとかける。熱々のごはんの上でさっと溶けていく煮こごりを見ているだけで、日頃のわだかまりがなくなってしまいます(笑)」
驚くほど安い食材で極上の料理を作るという優越感。
小泉さんの料理の腕前は、玄人はだし。自宅の厨房を「食魔亭」と名付け、来客をもてなしている。アラ料理のレパートリーも膨大だ。
「得意料理は、鮭のどぶろく鍋。鮭の頭をブツ切りにし、2日間とろ火で煮込みます。柔らかくなったところへ酒粕と野菜、豆腐などを加えて煮るんです。ドロドロの鮭、酒粕のコク。もうたまりませんよ」
スーパーの魚売り場に行くと、まずのぞくのはアラのコーナーだという。
「鮭の頭が800円もしないで売られているのを見ると『やった!』と思う。アラはね、料理するのが楽しいんですよ。安いし、場合によっては捨てられてしまうような材料でおいしいものを作っているんだと思うと気分がいい。出来上がった料理を食べていると『世の魚好きよ、どれだけおいしい魚を食べているか知らないが、アラ料理のほうが断然うまいぞ』と、一種の優越感にひたれるんです(笑)」
アラ愛が高じて、昨年『骨まで愛して』という小説まで上梓した(前ページ写真)。魚のアラ料理専門店を舞台にした物語だ。本の中に登場するアラ料理の種類も相当なもの。「骨料理」「皮料理」「頭部と目玉料理」「血および血合い料理」など、部位ごとに細かく分かれている。
「大半が、実際に私がこれまでに作ったものなんです。だからこの本は、いわば私のレシピ集。アラを使った料理をたくさん作ってきたので、皆さんにも知ってもらいたいと思ってこの小説を書いたんですよ」
料理はもちろん、全国各地にはアラを使った加工食品も多い。イカの身と肝臓に塩を加えて熟成させた塩辛はその代表格。ほかにもカツオの胃と腸を使った酒盗、魚の内臓を使って作る魚醤など、バラエティー豊かだ。