女の幸せはこうなんだ、といっているのは男たちなのね――道下匡子(翻訳家、作家)
文・澁川祐子
女の幸せはこうなんだ、といっているのは男たちなのね――道下匡子(翻訳家、作家)
結婚して専業主婦になり、子どもを産んで育てる。それが当たり前だった時代、ひとりで生きている女性5人にインタビューした記事です。
タイトルに「ひとり暮し」とあるため、マンションやアパートでのひとり住まいを想像します。しかしよく読むと、親と同居している人が5人中3人。ここでの「ひとり暮し」は、夫がいない、つまり結婚していないということ。いまや女性のひとり住まいは珍しくありませんが、当時はまだ少数派だったことが透けて見えます。
その5人のなかでいちばんとんがっていたのが、名言の主の道下匡子さん。女性アーティストの伝記の翻訳を数多く手がけ、フェミニストとしても活動してきた人物です。それだけに発する言葉の一つひとつにパンチがあります。
<平穏な結婚制度は男社会にとって便利なのよ。それも経済的に自立しない女との結婚ね。風呂からパンツの世話まで女によりかかる。半人前にしておくわけね>
<年とって生き生きしている人は、健康、生き甲斐、お金、この三つを持っています。若くても同じことよ。この三つが必要だわ>
なかでも鋭かったのが、名言の一節です。「女の幸せは」なんて語るのは、決まってメディアに出ているオッサンたちだと一蹴。<そんなこというんだったら、自分がそういう生き方すればいいじゃないですか。家事や育児するのよ。(中略)そういう人に限って、何もやってないんです>とぴしゃり。
40年以上経ついまもこの言葉が痛快に響く、ということへのモヤモヤはさておき、彼女の力強い姿勢に見習って、他人から押しつけられる「幸せ像」に惑わされないようにしたいものです。
※肩書きは雑誌掲載時のものです。
澁川祐子(しぶかわゆうこ)●食や工芸を中心に執筆、編集。著書に『オムライスの秘密 メロンパンの謎』(新潮文庫)、編著に『スリップウェア』(誠文堂新光社)など。
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