くらし

角野栄子さんに聞きました。素敵な大人のマナーって?

  • 撮影・馬場わかな スタイリング・くぼしまりお 文・三浦天紗子

「おしゃれは色を絞って。明るい色で気分も上げる」

娘のりおさんが角野さんのファッションアドバイザー。ファスナーにボタンを付けたネックレスは、りおさんが見つけてきた。

ところで、ライフスタイルブック『角野栄子の毎日 いろいろ』(KADOKAWA)や『角野栄子 エブリデイマジック』(平凡社)を読むと、そのセンスに驚く。

「おしゃれは好きだったけど、もののない時代に育ちましたから、母のショールをバラしてベストにしたり、姉と一緒にお洋服を手作りしたりしたのが楽しかった。だからいまでもそんなに高いものは買えないの。ヘンに身の丈に外れたものを手にすると気持ちが悪いんです。いま娘に撮影時の服のコーディネートなどを頼んでいるのだけれど、アクセサリーなんかも5、6千円を超えると文句言っちゃう(笑)。人それぞれで線引きは違っていて構わない。でも私は、身の丈のおしゃれが落ち着いて楽しめていいんですよね」

赤を印象的に着こなす姿に憧れるファンも多い。大勢集まる席にたまたま赤い服を着て出かけたときに、居合わせた画家から「赤がよく似合う」と言われたことが、イメージカラーにしたきっかけだそう。そのとき角野さんは御年42歳。

「学生時代は父がうるさくて、紺とかグレーしか着させてもらえなかった反動かしら。ずっと、あまり派手なのもどうかしらと思っていたけれど、赤とか黄色とか明るい色を着ると気持ちも明るくなる。年齢なんて気にしない。それでも、色使いは2色、せいぜい3色までで組み合わせるのが私なりのルールですね。娘がメガネとソックスの色みを合わせることを教えてくれて、2、3年前からソックスにも凝っているんです。足首があったかいと体が冷えないから、年寄りには絶対いいおしゃれですよ。そうしたら、あるお祝いで編集者さんたちがソックスのプレゼントをいっぱいしてくださって。うれしかった」

「底の底まで言わずにおいて、笑い合える朗らかさを保つ」

84歳のいまも人づきあいの多くは、編集者など仕事関係者でありつつ、かけがえのない友だち以上になった人たちだという角野さん。食事も遊びもともにする円満な間柄だが、それを続けるためにも包み隠さず底の底まで話すようなことはしないようにしている。

「いまの人たちは、すごく配慮してものを言いますよね。私が若いころは、ざっくばらんに話すことがわかり合える道というのが暗黙の了解だったんです。だから私なんかは回り道して言われると、本当の要求が何なのか掴みきれないときがある。でもそれもいいことなのかなと思うことがあります。LINEとか若い人たちにとっては日常の一部で、テンポよく会話が成り立つツールですよね。その世界に生きていない人たちはとやかく言うけれど、言葉は不変ではなく動くものだから。たとえば、私からのメールの返信に娘は〈りょ〉と書いてきたことがあったの。聞いたら、それは了解の意味だと教わった。なので次に娘からメールが来たときに、私はわかりましたを縮めて〈わ〉と返したんです。そうしたら『それは違う』って(笑)。そんなやりとりで、何言ってんのよ、となって喧嘩の種になるのはよろしくない。笑い話にできるような関係でいたいと思いますね」

白木の筆立てに角野さんがカラフルなイラストを描いた。
連載のラフスケッチの一部。手元にストックしてある。

『クロワッサン』1007号より

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