【豊﨑由美さん×村井理子さん 対談】犬と生きる
その愛犬・黒ラブラドールのハリーに豊﨑由美さんが会いに来ました。
撮影・福森クニヒロ 文・三浦天紗子
今日教えていただいた本、みんな買います!(村井さん)
村井 犬の愛情はずっと一定ですよね。我が子だと、反抗期とか関係がぎくしゃくしたり波があるけれど、犬の愛は凪です。ずっと継続するのが一緒に暮らしていてうれしい点です。
豊﨑 村井さん、ハリーと一緒に17Liverになるといいですよ。
村井 イチナナライバー? なんですか、それは。
豊﨑 台湾発のライブ配信SNSで、アジアの若い世代に爆発的に流行っているらしいです。コメントがついたり、ギフトと呼ばれる仮想通貨を贈ってもらったり。
村井 投げ銭みたいなものですか。
豊﨑 ですね。スマホアプリをダウンロードして、ハリーとの生活をナマ配信してください。ハリーにぐいぐい引っ張られている村井さんを見て、「村井さんがんばれー」とか「ハリー可愛い!」とかいろいろつくかも。
村井 それはあとで調べてみます。
豊﨑 村井さんは翻訳家として、私は書評家として、海外の文学に関係している輩じゃないですか。せっかくだから、お互いが好きな、犬が出てくる本を紹介し合いませんか。私のおすすめは、閻連科(えんれんか)の『年月日』です。千年に一度の大日照りが来て、村人は村を捨てるんですが、先(せん)じいは村にとどまり、一本だけ残ったとうもろこしの苗を守ろうとします。先じいの相棒に、雨乞いの儀式で全盲になったメナシという犬がいて、先じいのメナシに対する驚異の念と、メナシの先じいに対する無類の愛情に打たれて、私は声を上げて泣きました。
村井 あー、絶対買います。今日買います!
豊﨑 ダニロ・キシュという旧ユーゴスラビア人作家の短編集『若き日の哀しみ』に収録されている「少年と犬」は、タイトルだけで泣けますね。犬の一人称小説になっていて、犬が生まれて少年と出会い、別れがくる。ありていの話なのに、揺さぶられます。ディンゴと名づけられたその犬が言うあるひと言は、村井さんにとって相当ヤバいですよ。ハリーと2カ月離れた経験があるから、「こういう気持ちにさせてたかもしれないな」と思って。私は小説や映画の中での犬の扱われ方がすごく気になるんです。犬が出てくる作品だと聞くと、真っ先に「犬は死ぬの?」と聞きます。で、そうだったら映画館とか行けないです。
村井 私もです! 結末をインターネットで検索して安心できないと楽しめない。ただ、谷口ジローさんのマンガ『犬を飼う』は犬を看取る話ではあるんですが、こんなふうに送ってあげられたらいいなと感動しました。犬との地味な、飾らない等身大の生活が描かれていて、大好きです。
豊﨑 古本しかないけど、ジャック・ケッチャムの飼い犬を殺された老人の復讐劇『老人と犬』、ダン・ローズの『ティモレオン』も傑作です。ティモレオンという犬が家に戻るまでのエピソードの一つ一つがすばらしい。私、ラストは怒りで鼻血出しました……。
村井 読みたいですー。全部買おう。
これからもハリーと守り守られる関係で。
豊﨑 村井さんは、これからハリーとやってみたいこととかありますか。
村井 旅行とかも憧れますが、ゆっくり歩いて散歩したい。それがいちばん近い目標ですね。いまはわーーーって湖に向かって猛ダッシュだから。
豊﨑 犬はエラン・ヴィタール(生の躍動)のかたまりですからね。旅行、いいじゃないですか。クルマにテント積んでも行けますよ。ハリーが守ってくれるから怖いものなしですよね。
豊﨑由美(とよざき・ゆみ)さん●1961年生まれ。新聞、女性誌などの書評で広く活躍。翻訳家・大森望さんとの「メッタ斬り」コンビで人気を博す。
村井理子(むらい・りこ)さん●1970年生まれ。訳書多数。ハリーとの生活を綴ったフォトエッセイ集『犬(きみ)がいるから』(亜紀書房)が好評。
『クロワッサン』948号より