くらし

『京都怪談巡礼』著者、堤 邦彦さんインタビュー。 「近世の怪談を通して見る、京都の異界」

  • 撮影・黒川ひろみ
「安珍清姫(あんちんきよひめ)」「牡丹灯籠」といった説話から、小野小町や豊臣秀次まで。知られざる京都怪談を、近世文学から読み解く。 淡交社 1,600円
堤 邦彦(つつみ・くにひこ)さん●1953年、東京都生まれ。京都精華大学人文学部教授。著書に『江戸の高僧伝説』『江戸の怪異譚ーー地下水脈の系譜』『「女人蛇体ーー偏愛の江戸怪談史』など。2015年より怪談朗読団体「百物語の館」の元締として公演活動中。

アンソロジストであり、文芸評論家の東(ひがし)雅夫さんいわく、「史上最強の京都怪談ガイド」と言わしめた本書。著者である堤邦彦さんは、普段は京都精華大学で教壇に立つ研究者である。ライフワークは、近世怪談。京都というと、平安時代の英雄や陰陽師の妖怪退治が思い浮かぶが、実はかの地で怪異譚が花盛りだったのは、江戸時代だという。絵入りの大衆的な怪異小説が多く登場し、浄瑠璃や歌舞伎で幽霊や鬼女の物語が人気を博していた。そうした近世の目を通して、京都の街を読み解いてみたら? そんなユニークな試みが形になったきっかけは、堤さんが行っていた怪談の朗読会だった。

「最初は授業の一環から、江戸時代の怪談を朗読する会が始まりました。今では任意団体として年に6回、京都のお寺やカフェでイベントを開催しています」

空間演出や音響にも趣向を凝らして、江戸の百物語を甦らせたかのような朗読会にはリピーターも多い。そこに足を運んだ編集者から依頼があり、本書は実現した。

怪談が語られた当時の感覚を、1枚の写真に込めたかった。

本の構成も、またユニーク。「首塚をめぐる」「京都版『牡丹灯籠』をめぐる」といったテーマごとに、現地に赴いて研究対象に迫るフィールドワークの手法にのっとった章では、怪談にまつわる遺物を保管する寺で住職と対談をしたり。「蛇になる女の執念」「食人鬼の正体」といった、読み物がそれに続く。本を手に取って興味を抱いた人が跡をともに辿れるよう、碑や寺宝のある場所を示したイラスト地図を載せるなどの工夫も。たとえば、「京都版『牡丹灯籠』」では、掲載写真をどこから撮影するのかに、とことんこだわった。

「そこには京都の人の目線というのが絶対にあるだろう、と。主人公の男が住んでいた五条京極を歩いていると、今はビルの合間の向こうに山が見える。けれど、ビルがなかったら視線の先すべてが山なんです。その感覚を300年遡って1枚の写真で再現したかった」

なぜなら、道の先に見える鳥辺山がこの怪談には大きな意味を持つからだ。中世には風葬の地として、江戸時代には心中事件の噂の地として知られた場所だという。そのイメージを持って初めて、牡丹灯籠の怪談としてのリアリティが真に迫ってくるのである。そうした感覚が、京都で怪談の跡を辿る醍醐味なのかもしれない。

「実はこの本で取り上げた題材は自分が学生時代から温めていたことがかなり入っているんです。当時は近世の怪談を文字で読んでいるばかりで臨場感というものはなかった。けれど、30歳すぎて京都に住むことになってみたら、むちゃくちゃおもしろいわけですよ。あると思ってみなかったものが、本当にそこにあるのですから」

本書を片手に、峠の坂道、鴨川の岸辺、ビル街の路地裏……都の東西南北に点在する異界の入り口、見えない世界へのフィールドワークに出かけてみよう。

『クロワッサン』1003号より

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