本の構成も、またユニーク。「首塚をめぐる」「京都版『牡丹灯籠』をめぐる」といったテーマごとに、現地に赴いて研究対象に迫るフィールドワークの手法にのっとった章では、怪談にまつわる遺物を保管する寺で住職と対談をしたり。「蛇になる女の執念」「食人鬼の正体」といった、読み物がそれに続く。本を手に取って興味を抱いた人が跡をともに辿れるよう、碑や寺宝のある場所を示したイラスト地図を載せるなどの工夫も。たとえば、「京都版『牡丹灯籠』」では、掲載写真をどこから撮影するのかに、とことんこだわった。
「そこには京都の人の目線というのが絶対にあるだろう、と。主人公の男が住んでいた五条京極を歩いていると、今はビルの合間の向こうに山が見える。けれど、ビルがなかったら視線の先すべてが山なんです。その感覚を300年遡って1枚の写真で再現したかった」
なぜなら、道の先に見える鳥辺山がこの怪談には大きな意味を持つからだ。中世には風葬の地として、江戸時代には心中事件の噂の地として知られた場所だという。そのイメージを持って初めて、牡丹灯籠の怪談としてのリアリティが真に迫ってくるのである。そうした感覚が、京都で怪談の跡を辿る醍醐味なのかもしれない。
「実はこの本で取り上げた題材は自分が学生時代から温めていたことがかなり入っているんです。当時は近世の怪談を文字で読んでいるばかりで臨場感というものはなかった。けれど、30歳すぎて京都に住むことになってみたら、むちゃくちゃおもしろいわけですよ。あると思ってみなかったものが、本当にそこにあるのですから」
本書を片手に、峠の坂道、鴨川の岸辺、ビル街の路地裏……都の東西南北に点在する異界の入り口、見えない世界へのフィールドワークに出かけてみよう。