長年ひとり暮らしを楽しみ、会社勤めの仕事ではないので定年退職もないため、これまで人生の節目的なものが特になかったという中野翠さん。ずっと健康なので、老いたという実感もあまりないまま、今までなんとなくきてしまったと笑う。それでも周囲に、リタイアしたり病気になる同世代が増えているのを見て、そろそろ自分の人生も終盤にさしかかっているのかな、と最近は思うこともあるという。
「だからといって、急に何かが変わるわけでもないので、生活はほぼ今までどおり。このまま、“おもしろ愉しく”生きていければいいかなぁって。若い頃に比べれば家にいる時間は長くなっているけれど、やりたいことがたくさんあるから、それも全然苦にならない。トシヨリってもう世の中の中心じゃないわけだから、ハタ迷惑にならない程度に自分を解放して、もうちょっとアナーキーに生きられたらいいなと思っています」
そんな中野さんが、昔から「心の師」のように思っているのが、作家の森茉莉さんと女優の沢村貞子さん。
「森茉莉さんのエッセイは全部読んでいるけど、最初に読んだ『贅沢貧乏』は衝撃的だった。50代半ばという遅いデビューで、当時は耽美派と言われていたんだけど、女性作家でこんなにも深く鋭く私を笑わせてくれる人は初めてだと思った。言葉に対する厳密さというか、フェティッシュぶりもすごかったんだけど、それ以上に感動的だったのがそのぐうたらぶり!」