フリーアナウンサー・三田友梨佳さんの着物の時間──着物は“非日常”といわれますが、自分なりの日常にしてはどうですか?
撮影・青木和義 ヘア&メイク・chiSa(SPEC) 着付け・小田桐はるみ 文・大澤はつ江 撮影協力・玄冶店 濱田家
叔母から譲られた訪問着と帯。上品で控えめな美しさが好きです
下町情緒が残る街として人気の東京・日本橋人形町。フリーアナウンサー・三田友梨佳さんの両親が営む、創業100余年の歴史を誇る料亭『玄冶店 濱田家』もその一角にある。
「このあたりも今はビルが増え、随分と変わりました。私の子どものころは料亭やしもた屋(商家でない家)がほとんどでした。母は『濱田家』の女将として采配をふるっていましたから、私は向かい側にあった実家で祖父と過ごす時間が多かったですね。ときにはそっと店に行き部屋を散策。なにしろ広いので子どもの探検心を満たしてくれたんです」
と三田さん。今回の撮影はその『濱田家』の玄関先で行った。
ピンクがかったベージュに松や藤、菊、橘など四季の草花がさりげなく描かれた訪問着。そこに柿色の袋帯を合わせ、スッと立つ姿は優美そのもの。
「この着物と帯は数年前に叔母から譲り受けたものです。叔母が大切にしていたもので、格式のある集まりや結婚式などに着ていたように思います。古典的な柄なのですが、上前に松や菊などを斜めに配したところが洒落ていますよね。絵柄に使われている柿色に合わせて帯を選び、取り合わせるセンスもさすがで、着物を知り尽くした叔母ならでは」
三田さんも“ここぞ”というときにこの着物を着用するという。
女将である母親や叔母たちの着物姿を間近に見て育った三田さん。おのずと子どものころから日本文化や伝統芸能に触れてきた。
「6歳の6月6日から高校卒業まで、藤間流で日本舞踊を習っていました。このときに師匠の藤間勘紫恵さんから踊りの手だけでなく、所作、ことば使いなど教えていただきました」
なかでも最初にいわれたことを今でも守っているという。
「『ご挨拶は相手の目を見て行うこと。頭を下げ、顔を上げたら、もう一度、相手の目を見ること』。目を見る、とても大事なことですよね。相手の思いも、自分の思いも目を見て話すことでより伝わりますから」
着物での立ち居振る舞い、無駄のない美しい動作など、数えあげればキリがない。
「私を人として成長させてくれたのが日本舞踊。このほかにも高校時代に裏千家のお茶を習い始めました。これは今でも続けています。実は高校在学中に交換留学生として、シアトルに1年間暮らしていたのですが、このときに学友たちにお茶をふるまって、とても喜ばれたんですよ。日本の伝統文化を少しでも伝えられたならうれしいです」
いつも身近に着物があった三田さん。当然、着付けも自身で行える。
「幼なじみの家が呉服屋さんで、彼女のお母さまに教えてもらいました。もちろん、母にもポイントを教えてもらったり。あとは日舞のお稽古場で先輩たちから、動きやすい着付けを伝授していただきました。着物を着たときに大切にしているのは姿勢。スッと伸びた背筋の美しさを意識しています」
さらに季節の取り入れ方などにも気を配る。
「母から『着物は季節をほんの少しだけ先取りするのがお洒落。でも、各部屋には季節の花が活けてあるので、それより、着物が目立ってはいけないの。あくまで主役はいらしてくださったお客さまと旬の生花』と。悪目立ちしない、出すぎない。でも、着物の美しさは表現する。そのバランスの取り方が重要なのだと教えてくれたのだと思います」
着物は幸せをまとうようだ、と三田さん。
「温かくて包まれる感覚が心を豊かにしてくれます。気持ちがシャンとすることも魅力のひとつ。着物は非日常といいますが、自分なりの日常にしてみてはどうでしょう? これからも着物の美しさを伝えていきたいです」
『クロワッサン』1154号より
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