截金作家・江里朋子さんの着物の時間──着物や伝統工芸に触れると、心に豊かさが生まれると思います
撮影・青木和義 ヘア&メイク・林さやか 着付け・小田桐はるみ 文・大澤はつ江 撮影協力・emmy art+
ぼかしの着物や色無地が好きです。帯や小物で変化がつけられますから
薄い金箔を数枚重ねて焼き合わせ、一枚の箔を作る。それを竹刀(ちくとう)で切り、極細の線状にしたものを貼り繋いで文様を描いていく技法を截金(きりかね)という。江里朋子さんはその技法を受け継ぐ、数少ない截金作家だ。
「日本には6世紀半ばに仏教とともに大陸から伝わったといわれ、仏像や仏画を飾る技法として取り入れられたようです。私が本格的に截金に向き合うようになったのは、学生時代。母の手伝いで截金を施す前の素材に彩色を始めたことがきっかけです」
母親は重要無形文化財「截金」保持者の江里佐代子(故)。その緻密な截金の作業を目の当たりにして育った江里さん。
「自分にはできないと思っていた(笑)」
彩色の手伝いをしているときに驚いたことがあったという。
「母の指示で彩色を施すのですが、色の組み合わせの妙、というのでしょうか、一見、色同士が合わなそうに見えるのです。でも、作品が出来上がってみると截金が引き立つ。色が全体の印象を変える重要な要素のひとつであることをこのときに学びました」
色といえば着物と帯の合わせ方にも母のセンスが表れていた、と江里さん。
「着物が好きで、個展での挨拶や公の集まりなどは着物を凛と着こなしていました。特に『ぼかし』や『色無地』が好みで、そこにどんな帯を合わせるかを考えるのがおもしろいのよ、とよく言っていましたね」
今回、その母親から譲り受けた着物のなかから江里さんが選んだのは、裾が薄萌葱(うすもえぎ)色で、そこから上へと徐々に銀鼠(ぎんねず)にぼかした単衣(ひとえ)。コバルトブルーの帯が草原に広がる青空を彷彿させる。
「母もよくこの組み合わせで、着物を楽しんでいました。帯は母がインドに旅した際に購入した、インドシルクのサリーの生地を日本で仕立てたもの。鮮やかなブルーにアラベスク模様で、帯だけ見るとなんて派手! と思いますが着物に合わせるとピタリとはまる。こんな見立ては母ならではだと思います。帯留めは友人のガラス作家・小川郁子さんの作品で、これは私のチョイス。ブルーに映える黄色とクリアのツートンです」
さらに着物の組み合わせのエピソードを江里さんが話してくれた。
「私も個展やイベントなどには着物で出かけることが多いのですが、母と同様のコーディネイトではおもしろくないと思い、着物だけを同じにして、帯と小物を替えて出かけました。でも、あとで母の写真を見て、やっぱり母のほうがベストだったと反省。着こなしの感性を磨いていきたいです。まずは小物で私らしさを出すことからですね」
着物と截金、どちらも美しい世界なので多くの人に知ってほしい、と。
「民族衣装の着物や伝統工芸に触れると心が豊かになると思います。先人から受け継いだこのバトンを後世に残していきたい」
『クロワッサン』1148号より
広告