膣の乾燥感がひどく、夫との性交渉のとき、痛みがあります。【86歳の現役婦人科医師 Dr.野末の女性ホルモン講座】
イラストレーション・小迎裕美子 撮影・岩本慶三 構成・越川典子
Q.膣の乾燥感がひどく、夫との性交渉のとき、痛みがあります。
野末先生、こんにちは。更年期症状なのかいろいろ不調を感じていて、連載を参考にしています。実は、1年くらい前から、セックスのときに痛みを感じるようになりました。乾燥しているようで、出血したこともあります。夫は年下でもあり不満な様子ですが、私の痛みはひどくなる一方。肌や眼、口の渇きなどもあって、乾燥は全身にわたります。治療する方法があれば教えてください。閉経は2年ほど前でした。(R・Wさん 52歳 会社員)
A.膣の乾燥を感じる人は 実はとても多いのです。ホルモン療法で治ります。
「性交痛」は、更年期障害の立派な症状です。女性ホルモンのエストロゲンは、さまざまな形で女性のカラダを守ってくれていますが、潤いもそのひとつ。エストロゲン分泌が減少すると、粘膜や皮膚から弾力が失われますが、それは膣だけではありません。皮膚や、眼や口腔内の粘膜の乾燥も特徴的です。
R・Wさん、痛みは我慢しないでください。治療法はあります。
女性ホルモン補充療法(HRT)は第一選択です。全身に作用する経口剤(飲む)、貼付剤(貼る)、ジェル剤(塗る)を選べますし、局所的に作用する膣錠で症状を軽減させることもできるんですよ。さらに、ゼリー状の潤滑剤を使用すればよりよいと思います。
R・Wさんのように、年下の男性と結婚した場合はとくに、性交渉がなくなれば、夫からすれば理由もわからず拒否されたと感じますから、夫婦の人間関係を大きく損なう可能性があります。まず、自分のカラダに何が起きているのかを、きちんと夫に話すことが大事です。HRTを始めること、いつまで続けるかについても、2人でよく話し合う。もちろん、最終的に決定するのはあなた自身です。
【女性ホルモン補充療法(HRT)を受けようと思ったきっかけ】(複数回答)
女性の健康とメノポーズ協会調べ(2013年)
痛みや違和感を放置しておくと、膣の萎縮がすすみ、膣炎を発症することもあります。外陰部の皮膚も薄くなり、かゆみや臭いの悩みが出ることも少なくありません。
子宮がん検診に使う膣鏡や検査用のチューブさえ痛みが出る人もいます。そういう場合、私は、女性ホルモンの膣錠を何日か前から使ってもらい、粘膜をやわらかくしてから検査を受けてもらっています。
「もう年齢なのだから」と考える人もいます。何を優先するか、価値観の違いもありますが、長い一生を考えると、より快適に暮らすことを選ぶのも賢さです。医療も、予防・治療だけでなく、QOL(生活の質)を考慮に入れるべきだと、私は考えています。
思い出すのは、数十年も前のこと。アメリカやヨーロッパの女性の婦人科医師たちとの交流です。閉経を過ぎても、とにかく元気。皆、明るくって、楽しそうに仕事をしているんですね。聞けばHRTをしている。「どうやって?」と聞くと、「ここに貼っているのよ」と、腰を指してパッチ剤(貼付剤)を見せてくれました。日本の女性との、人生の向き合い方の違いに気づいた瞬間でした。もっと快適に生きるためにどうしたらいいか、私たちも考えてもいいのではないでしょうか。
※症状や治療法には個人差があります。必ず専門医にご相談ください。
人生を楽しむために女性医療を選ぶ、そういう時代です。(Dr.野末)
野末悦子(のずえ・えつこ)●産婦人科医師、久地診療所婦人科医。横浜市立大学医学部卒業。川崎協同病院副院長、コスモス女性クリニック院長、介護老人保健施設「樹の丘」施設長などをへて現職。
『クロワッサン』1004号より