落語における余韻と拍手の関係について。│柳家三三「きょうも落語日和」
イラストレーション・勝田 文
先日クラシック音楽のコンサートに行くと、開演前の場内アナウンスに「演奏が終わってもまだ音楽は続いています。指揮者の腕が下におろされるまで拍手はご遠慮ください」という一節がありました。
ああ、こちらの世界も拍手で困ってしまうことはあるんだなと、演者側の立場を思ってひとり苦笑してしまいました。
たしかにクラシックの演奏会では、曲の最後の音が奏でられた途端、文字どおり間髪を入れず万雷の拍手と「ブラボー」の声が飛び交うこともありますが、時としてよく見ると指揮者はじめ舞台上のオーケストラの皆さんは、演奏された音が徐々に消えてゆく余韻にまで心をかよわせ、じっと目を閉じているなんてことがあります。
落語も余韻を楽しんでいただくとより味わいが深まることがあります。演者の言葉を聞いたお客さまがその意味を理解し、頭のなかでその情景を思い浮かべ、それを楽しいと思ってくださるには、ごくわずかですが時間差が生まれます。落ちの言葉が終わった瞬間に拍手! みたいなタイミングだと、周りのかたのほんの少しの余韻を吹き飛ばしてしまうこともあるのです。
もちろん落語は堅苦しいものじゃありませんから“正しい鑑賞態度”なんて窮屈なものでがんじがらめじゃ面白くありません。
全体的にゆるっとした心持ちで、終わったらイントロクイズ並みの早さで拍手! なんて緊張感も忘れ果ててくだされば、いつもゆるりとした「落語日和」をお楽しみいただけると思いますよ。
柳家三三(やなぎや・さんざ)●落語家。公演情報等は下記にて。
http://www.yanagiya-sanza.com
『クロワッサン』994号より
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