映画史に残るしょうもない男に、 人生を狂わされた京都の姉妹の物語。『古都憂愁 姉いもうと』│山内マリコ「銀幕女優レトロスペクティブ」
一重まぶたの慎ましげな和風美人で、大映女優のなかでも『眠狂四郎』シリーズ等の時代劇に出演し“華を添える”役どころが多かった藤村志保。デビュー5年目の1967年(昭和42年)に初主演を飾った本作では、戦時下の京都を舞台に、一夜の過ちから妹と絶縁することになってしまう姉を演じています。
作家の結城(船越英二)は世の中が戦争中なのに腐り、京都で旅館を営む志麻(八千草薫)の元に身を寄せている。小料理屋を営む姉妹は、結婚間近だった妹(若柳菊)の婚約者(長谷川明男)が出戻りの姉(藤村志保)に愛を告白したことで運命が狂い出す……。
原作は川口松太郎。この時代の作家はこぞって京都に通い、戦争によって失われた日本文化が残った街を憧憬のまなざしでもって小説に書いていたとか。題名からして京都へのロマンティシズムに溢れた本作は、古刹でのロケ撮影も多く、女優陣が全編着物姿でとても美しく撮られています。
父の代から続く老舗の小料理屋で包丁を握る藤村志保は、着物で厨房に立って京料理を作り、八千草薫は京舞を披露と、京都らしさ全開。時代劇の名匠である三隅研次はケレン味たっぷりのキレキレ演出が持ち味ですが、その腕は現代劇の女性映画でも健在です。
妹の婚約者と姉が一夜をともに……という禁断の二股に端を発し絶縁した姉妹を取り持つのは、当時36歳で生臭い色恋からは一段高いところにいる八千草薫。男あしらいの巧さ、京都弁での交渉術が見もので、姉妹の和解に奔走する彼女こそ真の主役といえるかも。非常に面白い映画なのですが、しょうもない男に引っ掻き回され多大な迷惑をこうむった女たちの苦労話が、悲劇として美化されているのには若干のもやもや感も。とにかくあの婚約者には地獄に堕ちてほしいです。
婚約者といえどレイプまがいの性的強要を受けた妹、一夜の過ちを開口一番バラされて人生が狂う姉。セクハラが笑ってすまされる描写の多さ。おお神よ、これが昭和なのか!
山内マリコ(やまうち・まりこ)●作家。短編小説&エッセイ集『あたしたちよくやってる』(幻冬舎)が今月14日に発売される。
『クロワッサン』993号より
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