“読み聞かせ古事記”に学ぶ。│山口恵以子「アプリ蟻地獄」
イラストレーション・勝田 文
読んで字の如く、子供にも分るように優しく翻訳した『古事記』を、紙芝居仕立てにしたアプリ。
これは正真正銘、優れものだ。大人も充分に楽しめて、勉強になる。
読者の皆さんの中で、キチンと『古事記』を読んだ方はどのくらいいらっしゃるだろう。おそらく一割、多くても三割に満たないと思う。
イザナギとイザナミがラブラブで結婚した後、あんな悲惨でグロテスクな結末を迎えるなんて。互いに「愛する~」と呼び合いながら「あなたの国の住人を毎日千人殺す」「そんなら毎日千五百人産ませる」なんて会話、シュールで笑っちゃう。
子供の頃絵本で読んだ『八岐大蛇(やまたのおろち)』や『因幡の白兎(いなばのしろうさぎ)』も出典は『古事記』だった。そして兎を半殺しにしたのが“ワニ”なので、昔は日本に鰐がいたのかと思っていたら、サメのことだった。そんなあれこれを、私はずっと後まで知らなかった。
事ほどさように、我々日本人は自分の国の神話に親しんでいない。もしかして、『ギリシア神話』を読んだ人の方が多いかもしれない。
『ギリシア神話』にもオルフェウスが亡き妻を追って黄泉国(よみのくに)へ行くくだりがあるが、迫力と言い、ユニークさと言い、断然イザナギ・イザナミペアの勝ちである。
イザナギが黄泉国から帰って「すごく汚い所へ行ってきた」と、川に入って沐浴するシーンなど、日本人の“汚れ”を嫌う国民性は、神話の時代から継承されてきたのだと、まことに感慨深かった。
とにかく、お勧め太鼓判です!
山口恵以子(やまぐち・えいこ)●作家。最新刊『工場のおばちゃん あしたの朝子』(実業之日本社)が発売中。
『クロワッサン』978号より
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