暮らしの安心感に繋がる、「衣食住」の自給自足。
撮影・青木和義
藤野で、天然素材の雑貨や衣類を販売する『暮らしの手仕事〜くらして〜』を営む大和(おおわ)真由美さん。手仕事のワークショップには県外からも人が集まるが、その作業は、なんと畑に綿の種をまくところから。収穫した綿で糸を紡ぎ、織り・染めなどの工程を経て生地が出来上がり、最後は下着や洋服に。正真正銘、一からの手作り。ビオ市が「食」の自給なら、大和さんが実践するのは「衣」の自給だ。
「綿は5月に種まきをして、収穫は11月。そこから私たちが着るものになるまでを考えると、1年近い時間がかかるということですよね」
という大和さんは、以前、東京のアパレル会社で企画やパタンナーの仕事をしていた。出産を機に仕事を辞め、藤野にやって来たのは10年前。
「引っ越してから数年後、知人に綿の種をもらったんです。でも、その時は畑もないし、畑仕事もしたことがない。東日本大震災直後だったのもあって戸惑いのほうが大きかったけれど、地元の農家さんの協力でなんとか栽培を始めました。花が咲いてコットンボールになって、綿が採れて。その姿を初めて見て、今までアパレル業界にいたのに素材がどこから来てるかなんて考えたこともなかったことに気づいたんです。自然の恵みってすごいなぁって、とても癒やされました」
羊毛は衣類のほか、畑に吊るせば イノシシ除けにも。
綿以外にもう一つ、大和さんが手仕事に使う素材が羊毛だ。
「もともとは飲食店を経営する夫が、『食』の自給自足を子どもたちに教えたいと言って羊を飼い始めたんです。ご近所さんに声をかけて、3家族交代で世話をすることになりました。私は毛を紡いだ糸で羊毛フェルトを作ったり、マフラーを編んだりしています。すごく暖かいんですよ」
自分のペースで少しずつ衣類を手作りするようになり、ある時「今日身につけているものは全部自分で作ったものだ」と気づき驚いたという。
「織りや染めというと、ハードルが高いと思われがちですけど、昔の日本人はみんな家族のために手をかけてたわけじゃないですか。難しいことは考えず、ただ愛情込めて作ればいいんじゃないでしょうか。最初から全てを自給自足しようなんて大きな目標を持たなくても、楽しむことから始めてみる。そうすれば、『自分で作れた』という自信が生きる糧になるし、物を大切にできているか?と暮らしを見つめ直すことにもなると思うんです」
広告