地図を広げる(1)──俳優、文筆家、電線愛好家・石山蓮華さん×地図地理芸・小林知之さん
撮影・高橋マナミ スタイリング・白男川清美(石山さん) ヘア&メイク・中村未幸(石山さん) 文・黒田 創
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電線をこよなく愛し、ラジオパーソナリティとしても活躍する俳優の石山蓮華さんと、地理好きが高じて地図会社の仕事にも携わる芸人の小林知之さんが、地図を持って東京・白金台から目黒駅までをぶらり。普段は歩きながら顔を上げて電線を眺める石山さんも、地図の世界に興味津々です。
石山蓮華さん(以下、石山) 小林さんの着ている地図がプリントされたシャツ、すごく可愛いですね。どこで買われたんですか?
小林知之さん(以下、小林) これは売り物ではなく作ってもらったんです。地図会社の人に、こういう地図入りの生地があるけど使う?って言われて、友だちに仕立ててもらいました。
石山 私、普段は地図を見る機会はあまりないんですけど、指定された電柱をタイムアタックで探すイベントがあって、その時ばかりは地図をまめにチェックしながらひたすら電柱を探しましたね。あとは10代の頃、オーディションを受けるのに地図片手に会場を探していた記憶があります。でもいつしかスマホの地図で済ませるようになりました。
小林 僕も地図をずっと見ているわけではなく、街を歩いていて目に留まったり気になったあれこれを、帰宅後に地図で確認するような使い方が多いです。でも、地図って我々の生活に深く関わっていて、スマホで地図アプリは普通に見ているし、駅にある路線図やデパートのフロアマップも地図の一種。あと旅行の際はガイドマップを買うじゃないですか。誰しも何かしら地図には触れているわけで、そこを少しだけ深掘りしてみると身近な世界に広がりが出るし、毎日がもっと楽しくなる。スマホの地図アプリも、地形や古地図が一発で見られるものがたくさんありますよ。
石山 確かに。今はまだないけれど全国の電線マップがあったら楽しいだろうな、といつも妄想してます(笑)。
小林 そういう発想って面白くて、日本の地図から建物や道路の線、海岸線も全部消して、細かいものも含めて川だけを残すとまんま日本列島の形になるんです。それと同じで、電線の繋がりを表した地図があれば、それ自体が日本地図になりますよ。
石山 大きな送電線や鉄塔が記された地図はあるんですけどね。発電所や変電所といった、電線にとっての重要な拠点は地図で見ていても見落とすことがあります。
小林 戦時中などは、地図に発電所や変電所を描いてしまうとそこが攻撃される恐れがあるので載せないケースが多かった。今でもその名残があるのかもしれませんね。
石山 なるほど。私も、電線や電柱の写真をSNSにあげる際は、もし場所が特定されちゃうと、誰かが悪用したりしないかな?って葛藤することがありますもん。
【2人が着目したのはここ!】
電柱を見れば街がわかる!? 石山流電柱&電線の眺め方
小林 でもこうして電柱を眺めると面白いですね。1本ごとに電力会社や通信会社の管理番号がふられていて、知らない土地で110番や119番する必要があっても、近くの電柱にあるこれらの番号を言えば先方はちゃんと把握してくれるんです。電柱は街の立派な情報源なんだなと。
石山 このあたりの電柱は上にある番号がNTTで下が東京電力ですね。電柱の一本一本にも、電線のつき方によって異なる表情があって、私はそれを眺めるのが好きなんです。通常、電柱には下から通信、低圧、高圧の順に電線が引いてあって、そのレイヤーが生き生きとして見える電柱を探すのが楽しいんですよ。
小林 なるほど、電線の表情を見ようとすると捉え方が違ってきますね。僕は逆に下ばかり見て歩いています。
石山 小林さんは地面のどこに着目しているんですか?
小林 例えば公道と私有地の境にある境界標。ここの場合、近くに「近隣住民が土地を譲ってくれて道幅を広げられました」というプレートがあって、以前はもっと道が狭かったことがわかる。そうした街の変化を示すものが地面にはたくさんあるんです。あとこれも(と言いながら歩道のタイルの継ぎ目を指さす。タイルだと隙間に水が沁み込む構造になっています。普通のアスファルトだと、大雨が降ったとき、どこにも浸水しないでそのまま街中に溢れてしまうことがあるけど、こういうタイルに張り替えることで地味に水害を防いでいる。少し歩くだけでも発見がありますよ。
石山 そうした路上観察的視点で東京を散歩すると、見るべきものが永遠に尽きませんよね。
小林 あとは自治体が道端などに歴史散策用のマップなどを設置してくれているケースも多くて、街歩きにはすごく便利なんです。普段急いで歩いていると目に入らないけど、意外とどの土地にもそうした道端の地図はあって、楽しめますよ。
60年以上前の絵地図から地図の世界の奥深さを知る
散歩から戻った2人は、小林さん持参の地図を眺めながらしばし談笑。地図に明るくなくても、アート的視点で楽しめるものがたくさんあるんです。
小林 石山さんにお見せしたいのが東京五輪の前年、1963年に出た『東京文化地図』。外国人も見て楽しめるイラストマップです。
石山 これは色遣いがすごい! 実用性より完全にビジュアルに特化している。この頃はNHKが渋谷ではなく愛宕山にあったんだ……興味深いです。私が電線好きになったきっかけが赤羽の街で、当時は岩淵水門が目立っていますね。足立区に住んでいたこともあるんですけど、この頃は見事に畑だらけ。でもそれをのちに区画整理して宅地化したから、今の足立はまっすぐで広い道が多い。そんな現在に繋がる部分も見えてきますね。この時代の東京に行ってみたいなあ。
小林 僕は生まれも育ちも練馬で、ここにも描かれていますが、当時から撮影所が多くて今でも東映の撮影所が大泉に残っています。あと、面白いのが石神井(しゃくじい)公園。公園の大きな池の周りに大きな家がたくさんあるんだけど、要は避暑地的な存在で、別荘地感覚で邸宅が建てられたんです。今じゃ練馬の夏は東京の中でも猛暑で有名で、避暑地なんて嘘みたいな話ですけど、昔はそう簡単に遠くの避暑地に行けるわけじゃないので、比較的都心に近い場所でもそうしたプチリゾート的な街づくりがされたんですね。
石山 もしかしたら吉祥寺の井の頭公園もそんな場所だったのかな? そういえば新宿駅の西側にも大きな浄水場がありますね。あんな場所に浄水場があったんだ。
小林 これは淀橋浄水場。今、都庁を中心に高層ビルが立ち並ぶあたりがすべて浄水場だったんです。
石山 へえ! そうだったんですね。あと描かれてはいないけれど、東京の東側には変電所がいくつかあるので、おそらくこの頃からそうだったんだろうな、とか想像しちゃいます。変電所には高圧な電力を受け取る一次変電所があって、それを二次、三次の変電所に分配したり、大きな需要がある工場設備などに送るんですよ。
小林 練馬の谷原って所に大きなガスタンクがあって、それも既に描かれてますね。近くで見るとめちゃくちゃ大きいんですよ。子どもの頃は「これが転がってきたらどうしよう」って友だちと話しながらそばを自転車で駆け抜けるんですけど(笑)。
石山 私が今住んでいる家の近くにもガスタンクがあるのだけど、このイラストに描かれてるかな……? あった! 60年以上前から立っているってすごいなあ。うれしいです。
小林 ガスタンクは昔から街のランドマークなんですね。あとこの地図は特定の出版社や相撲部屋、旅館などが妙に大きく描かれていて、各方面から「ここを大きく描いてよ」と頼まれたんだろうな、というのが透けて見えて面白い。そういう主観や偏見が入った地図がまた味わい深いんですよ。群馬の沼田市を訪れた時に入手した、地元の女子高校の生徒たちが作ったマップもそのひとつ。沼田は河岸段丘(かがんだんきゅう・河川に沿って形成された階段状の地形)で有名なんですけど、高校生の素朴なイラストに添えて「坂がきつい」「自転車で登るような坂じゃない」なんて記述があって最高なんです。
石山 生徒目線の地図なんですね。普通、地元の観光協会が出すガイドマップだとそうしたネガティブな情報は載せないでしょうし……。あとこれ、高校生が作っているのに自分たちの学校は目立たせずサラッと描いているのもつつましくて好感が持てます。
小林 学校までの道のりにきつい坂道があるって超青春の風景じゃないですか。そういう高校生の日常風景を感じられる点でもいい地図ですよ。
石山 地図の世界も電線と同じくハマったら抜け出せなさそう。今日はありがとうございました。
『クロワッサン』1163号より
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