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『たたかう仏像』静嘉堂文庫美術館──怒りの表情で衆生を導く仏たち

青野尚子のアート散歩。今回は、さまざまな「たたかう仏像」の展覧会。憤怒の表情を浮かべる仏さまや神さまは、何をそんなに怒っているのだろう?

文・青野尚子

重要文化財 広目天眷属立像 康円作 〔部分〕 文永4年(1267)静嘉堂蔵
重要文化財 広目天眷属立像 康円作 〔部分〕 文永4年(1267)静嘉堂蔵

仏像にはおだやかなお顔で私たちを見守る仏さまだけでなく、憤怒の表情を浮かべる仏さまや神さまもいる。彼らは何をそんなに怒っているのだろう? その訳を教えてくれる展覧会が開かれる。

見どころの一つは十二支と結びついて信仰された、浄瑠璃寺旧蔵の《十二神将立像》。大地を踏みしめ、腕に力を込めたポーズにエネルギーが満ちる。あわせて中国・唐時代の副葬品である大型神将俑群が展示される。日本の神将像は中国のものから大きな影響を受けた。その継承の様子もうかがえる。

会場ではさまざまな「たたかう仏像」の役割も解説してくれる。明王はやさしく教えても聞く耳を持たない人を力ずくでも導く存在だ。払うことが難しい煩悩をも払うという明王は、悟りへと強引に人々を連れていくため怒りに満ちた顔をしている。仏教界を護る四天王の一人、毘沙門天はガードマンとしていかめしい顔つきで任務にあたる。その毘沙門天を彫った刀は持つ人を加護すると信じられた。仏のまわりにいる眷属は信者たちを護る。千手観音を取り囲む二十八部衆は観音の信仰者を、釈迦を取り囲む十六禅神は「般若経」の信仰者を護ってくれる。

彼らは外敵や災厄だけでなく、煩悩のように人の内面に現れる“敵”とも戦っている。「たたかう仏像」がさまざまなお顔、姿形をしているのは人の多種多様な苦しみを取り除くためでもある。そんなバリエーション豊かな仏像に触れられる展覧会だ。

加彩神将俑 唐時代(7世紀)静嘉堂蔵
加彩神将俑 唐時代(7世紀)静嘉堂蔵

『たたかう仏像』

金銅十一面観音坐像および厨子のうち厨子 鎌倉時代(14世紀)静嘉堂蔵
金銅十一面観音坐像および厨子のうち厨子 鎌倉時代(14世紀)静嘉堂蔵

静嘉堂文庫美術館 2026年1月2日(金)~3月22日(日)

2月8日までを前期、2月10日以降を後期として一部展示替え。

静嘉堂文庫美術館(東京都千代田区丸の内2-1-1 明治生命館1階) TEL:050-5541-8600(ハローダイヤル) 10時~17時(第4水曜は~20時、3月20日・21日は~19時) 月曜休(1月12日、2月23日は開館、1月13日、2月1日・24日休) 入館料一般1,500円ほか
  • 青野尚子 さん (あおの・なおこ)

    アート・建築関係のライター

    著書に『超絶技巧の西洋美術史』(池上英洋さんとの共著、新星出版社)など。

『クロワッサン』1156号より

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