『ジートコヴァーの最後の女神たち』カテジナ・トゥチコヴァー 著 阿部賢一、豊島美波 訳──チェコの山間部にいた「女神」たちの運命
文字から栄養。ライター・瀧井朝世さんの、よりすぐり読書日記。
文・瀧井朝世
ノンフィクション・ノベルかと思うくらいリアル。著者あとがきによると、〈実在するジートコヴァーの女性の運命をもとにして執筆された〉もので、ただしフィクションも含まれているという。
スロヴァキアとの国境にほど近いチェコの山間部の村、ジートコヴァー。そこには代々人々を助ける「女神」と呼ばれる女性たちがいた。薬草やまじないに詳しく、物事を見抜く不思議な能力を持っていた女神たち。一九六六年、八歳の時に母が死んでから、ドラと弟は女神である伯母のスルメナに育てられた。成長して民族誌学研究者となったドラは、共産主義時代の秘密警察の書類にスルメナの名が載っていることを知る。ドラは資料を集め、伯母の身に起きた真実や自分のルーツを探っていく。
時代の流れとともにナチスや国家に目をつけられ、聖職者からは敵視され、医師から理不尽な診断を受けた女神たち。その厳しい人生に胸を痛めていたら、エピローグでも「!」。
気になって「ジートコヴァー」で検索したら、観光名所として最後の女神の家の紹介が出てきた。白壁と茶色の屋根の素朴な家の愛らしさと、その背後にある歴史の落差に、虚を突かれた思い。
『クロワッサン』1155号より
広告