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富山の鮨はなぜおいしい? “天然のいけす”をめぐる味覚の旅へ

東京から新幹線で約2時間。「その土地で食べる魚がいちばんおいしい」という言葉を体感するなら、富山ほどふさわしい場所はありません。立山連峰から富山湾へと一気に落ち込む約4,000mの高低差が豊かな海の幸を育み、「天然のいけす」と呼ばれるほど。そんな富山の“きときと(=新鮮)”な地魚を堪能できるスポットをご紹介します。

写真・文 久保田千晴

工芸と鮨を同時に味わう、富山らしさあふれる一皿

この日は、アジ、アンカン(=ウスバハギ)、ブリという冬らしい組み合わせ
この日は、アジ、アンカン(=ウスバハギ)、ブリという冬らしい組み合わせ
工芸皿はすべて一点もの!
工芸皿はすべて一点もの!
同じく富山湾でとれる白エビ軍艦、甘エビ、バイ貝。海苔の代わりに昆布を使うのが富山ならでは
同じく富山湾でとれる白エビ軍艦、甘エビ、バイ貝。海苔の代わりに昆布を使うのが富山ならでは
この日は、アジ、アンカン(=ウスバハギ)、ブリという冬らしい組み合わせ
工芸皿はすべて一点もの!
同じく富山湾でとれる白エビ軍艦、甘エビ、バイ貝。海苔の代わりに昆布を使うのが富山ならでは

最初に訪れたのは、毎朝氷見港で水揚げされる新鮮な魚を仕入れている「氷見回転寿司 粋鮨 高岡店」。
富山が“寿司のまち”と呼ばれる理由のひとつは、ここ氷見の定置網漁にあります。漁場が港から近いため、魚が網に入ってから競りにかかるまでの時間が圧倒的に短く、ストレスの少ない状態で手元に届くのだとか。

この日は、看板メニュー「氷見朝とれ三種」をいただきました。港からわずか数十分で届く魚だからこそ、驚くほどみずみずしく張りのあるネタが味わえます。さらに、この朝獲れ三種を盛り付けるのは、県内24名の工芸作家が「回転寿司の皿」をテーマに制作した一点物のプレート。漆、木工、金工、ガラスなど富山を象徴する工芸技術が融合した特別な器です。

日本酒愛好家からも人気を博している銘柄。スッと体に染みていく心地いい飲み口
日本酒愛好家からも人気を博している銘柄。スッと体に染みていく心地いい飲み口

合わせていただいた日本酒は、地元・清都酒造の希少銘柄「勝駒」。高岡の老舗鋳物メーカーが手がける錫の酒器に注ぐと、雑味が抜けて味わいがまろやかに。器からも富山の風土を感じられるひとときでした。

新湊・内川の〈IMATO〉で漁港の仕組みに触れる

新湊内川の鮮魚加工・販売を行う「IMATO」
新湊内川の鮮魚加工・販売を行う「IMATO」
一番人気はほたるいか。白エビやのどぐろなど富山らしい魚が並ぶ
一番人気はほたるいか。白エビやのどぐろなど富山らしい魚が並ぶ
店内には、旅のお土産にもぴったりな富山湾名物・ベニズワイガニの加工品も豊富
店内には、旅のお土産にもぴったりな富山湾名物・ベニズワイガニの加工品も豊富
深夜1時頃には漁に出る船を見送ることもできるのだとか
深夜1時頃には漁に出る船を見送ることもできるのだとか
新湊内川の鮮魚加工・販売を行う「IMATO」
一番人気はほたるいか。白エビやのどぐろなど富山らしい魚が並ぶ
店内には、旅のお土産にもぴったりな富山湾名物・ベニズワイガニの加工品も豊富
深夜1時頃には漁に出る船を見送ることもできるのだとか

富山湾の豊かさは、漁師・加工場・料理人が驚くほど近い距離の中で連携し、“獲れたてをその日のうちに食べられる”という稀有な環境に支えられています。そのサプライチェーンの要となる存在のひとつが、新湊・内川に店を構える鮮魚加工・販売所〈IMATO(いまと)〉です。

さばいた魚は「海洋深層水」にさっとくぐらせ、表面に薄い膜をまとわせてから乾燥・急速冷凍へ。分類上は“干物”ながら、仕上がりは驚くほど鮮魚に近く、焼けばふっくらとした旨みが広がります。無添加・低塩で、子どもから年配の方まで安心して食べられるよう工夫されているのも魅力。

IMATOが建つ内川周辺は、漁師町の風情が色濃く残るエリア。川沿いに小型漁船がずらりと並ぶ風景はどこか懐かしく、散策するだけでも楽しいですよ。

新湊漁港で、ベニズワイガニの「昼セリ」を見学

茹でる前から朱色なのが特徴のベニズワイガニ
茹でる前から朱色なのが特徴のベニズワイガニ
威勢の良いセリ人の掛け声
威勢の良いセリ人の掛け声
ものの数分ですべてのカニが競り落とされてしまいました・・・!
ものの数分ですべてのカニが競り落とされてしまいました・・・!
漁港の向かい側では、水揚げされたばかりの魚を破格で購入することも
漁港の向かい側では、水揚げされたばかりの魚を破格で購入することも
茹でる前から朱色なのが特徴のベニズワイガニ
威勢の良いセリ人の掛け声
ものの数分ですべてのカニが競り落とされてしまいました・・・!
漁港の向かい側では、水揚げされたばかりの魚を破格で購入することも

富山湾の恵みが集まる新湊漁港では、その日獲れた新鮮な魚介類のセリが行われます。特に注目したいのが、全国的にも珍しい「昼セリ」。昼前になると、獲れたてのベニズワイガニが赤い甲羅をつやつやと光らせながらずらりと並びます。

2階には観光客向けの見学スペースが設けられており、事前予約をすれば間近でセリの様子を見学可能。目の前で値が決まっていくスピード感に圧倒されます。漁港特有の潮の香りとともに、富山の食の源流を目の前で見るような臨場感を味わえますよ。

とれたて本ズワイガニで贅沢な押し寿司づくり。

綺麗に殻が向けた時の喜びはひとしお
綺麗に殻が向けた時の喜びはひとしお
甲羅を開けると、今まで見たことないレベルにたっぷり詰まったカニ味噌がお目見え
甲羅を開けると、今まで見たことないレベルにたっぷり詰まったカニ味噌がお目見え
そのまま食べたい気持ちを抑えて並べます
そのまま食べたい気持ちを抑えて並べます
上からぎゅっとおして、慎重に型を外したら、出来上がり
上からぎゅっとおして、慎重に型を外したら、出来上がり
断面まで綺麗にできました
断面まで綺麗にできました
綺麗に殻が向けた時の喜びはひとしお
甲羅を開けると、今まで見たことないレベルにたっぷり詰まったカニ味噌がお目見え
そのまま食べたい気持ちを抑えて並べます
上からぎゅっとおして、慎重に型を外したら、出来上がり
断面まで綺麗にできました

昼セリを見学したあとに向かったのは、漁港のすぐそばにある〈minato kitchen〉。
地域の食文化を未来につなぐ拠点として生まれたこの場所では、地元の魚を使った料理教室や発酵ワークショップなど、食にまつわる学びと体験が日常的に行われています。

この日は、セリで水揚げされたばかりの本ズワイガニを丸ごと一杯使って、押し寿司づくりに挑戦。大きな甲羅を開くと、ぎっしり詰まったカニ味噌の香りがふわり。思わずそのまま食べてしまいたい衝動を抑えながら、身を丁寧に取り分けていきます。出来上がった押し寿司を頬ばれば、カニの甘みが口いっぱいに広がり、思わずため息がこぼれる贅沢さ。その横でつまむほぐし身もまた、格別でした。

「寿司ラベルの日本酒」で味わう、究極のペアリング

ついつい集めたくなってしまうラベルの可愛さ
ついつい集めたくなってしまうラベルの可愛さ
今回は、富山土産としても有名な「ます寿し」と「サクラマス」の日本酒をペアリング
今回は、富山土産としても有名な「ます寿し」と「サクラマス」の日本酒をペアリング
ついつい集めたくなってしまうラベルの可愛さ
今回は、富山土産としても有名な「ます寿し」と「サクラマス」の日本酒をペアリング

富山の旅で実感するのは、鮨のレベルの高さだけではありません。
実は、寿司の味わいをさらに引き立てる“食中酒”として、日本酒も進化を遂げています。

中でもユニークなのが、「寿司ネタ」をそのまま記載した、「鮨と相性が抜群のお酒」。ホタルイカ、のどぐろ、白エビ、ブリ……各蔵元が、それぞれの日本酒にもっともよく合う寿司ネタをラベルに記載しています。難しい精米歩合や特定名称をあえて伏せ、直感的に食べたい寿司で選べるようにしているからか、外国人観光客や日本酒初心者でも手に取りやすく、人気を集めています。旅の思い出にもぴったりな一本です。

食べ過ぎた胃をいたわる寄り道

中心市街地で最も古い木造建築なのだとか
中心市街地で最も古い木造建築なのだとか
ところてん式に薬草を押し出し、一粒一粒を手のひらで丸めていく、根気のいる作業
ところてん式に薬草を押し出し、一粒一粒を手のひらで丸めていく、根気のいる作業
レトロなパッケージデザインに惚れ惚れ
レトロなパッケージデザインに惚れ惚れ
中心市街地で最も古い木造建築なのだとか
ところてん式に薬草を押し出し、一粒一粒を手のひらで丸めていく、根気のいる作業
レトロなパッケージデザインに惚れ惚れ

寿司にカニ、日本酒……とにかく富山の海の幸祭りが続いたこの日。少し胃を休めたくて立ち寄ったのが、薬のまち・富山を象徴する「池田屋安兵衛商店」。

江戸時代から300年以上続く、富山藩の薬文化を今に伝える老舗です。看板商品の「越中反魂丹(はんごんたん)」は、古くから“はらぐすり”として親しまれてきたもの。

店内では、江戸〜昭和時代に使われていた製造道具を前に、当時のつくり方を再現した実演も見学できます。小さな黒い丸薬は、先人たちの知恵と工夫がぎゅっと凝縮されているよう。お守り代わりに一瓶購入して、いよいよこの旅最後の寿司店へ向かいます。

旅の締めくくりは、富山湾の恵みを握りで。

魚を知り尽くした職人が、さばきたての旬の味を一貫ずつ差し出してくれます
魚を知り尽くした職人が、さばきたての旬の味を一貫ずつ差し出してくれます
この季節だけのお愉しみは、メスのズワイガニ、通称「香箱蟹」
この季節だけのお愉しみは、メスのズワイガニ、通称「香箱蟹」
富山湾に生息する深海魚「げんげ」の天ぷら&唐揚げ
富山湾に生息する深海魚「げんげ」の天ぷら&唐揚げ
次世代の寿司職人を育てるプロジェクトにも参加している
次世代の寿司職人を育てるプロジェクトにも参加している
魚を知り尽くした職人が、さばきたての旬の味を一貫ずつ差し出してくれます
この季節だけのお愉しみは、メスのズワイガニ、通称「香箱蟹」
富山湾に生息する深海魚「げんげ」の天ぷら&唐揚げ
次世代の寿司職人を育てるプロジェクトにも参加している

最後は「鮨 順風満帆(じゅんぷうまんぱん)」で、富山湾の恵みを握りで堪能。一日を通して、富山湾の海の仕組みや漁のサイクルをめぐってきた後に味わう鮨は、どのネタもいっそう深みが増して感じられます。この季節限定で味わえる「香箱蟹」は、ぷちぷちと弾ける卵の食感と濃厚な味噌が混ざり合い、思わず言葉を忘れるおいしさでした。

改めて実感するのは、「地のものは、その地で食べるのがいちばんおいしい」ということ。富山の海と人が育てる「きときと」の鮨は、旅の締めくくりにふさわしい、とっておきの時間でした。

東京からわずか2時間。この季節の富山は、魚介がとびきりおいしい絶好のタイミング。ぜひ皆さんも、この土地でしか味わえない富山の鮨の真髄を体験しに出かけてみてください。

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