ひとりでも、ひとりじゃない。信頼でつながる暮らし──青木道子さん “生き方”を守るケア(3)
撮影・岸本修平 構成&文・殿井悠子
92歳の青木道子さんが自宅で倒れ、動けなくなっていた状態で発見された。異変に気づいたのは、定期的に見守り訪問をしていた地域ボランティアの松田さんだ。訪問予定日に玄関の呼びかけに反応がなく、普段と様子が違うと感じた松田さんは、すぐに担当ケアマネジャーの森岡真也さんと新宿区社会福祉協議会(以下、社協)に連絡。迅速な連携により青木さんは救急搬送され、一命をとりとめた。
青木さんは劇団民藝の元俳優で、新宿でひとり暮らしをしている。介護保険サービスに加え、社協の支援や地域の見守りに支えられながら、在宅生活を続けてきた。一昨年ころから足腰が弱ってきて、日常生活に不安が見え始めていたが、歩行が困難になってもヘルパーの導入には抵抗を示していた。そこで森岡さんは、まず「話し相手」としての関わりから支援を始めようと、社協に依頼。派遣されたのが、地域ボランティアの松田さんだった。
松田さんは週に1回、青木さんの自宅を訪問。会話を楽しみながら、散らかった部屋を少しずつ片づけていった。「今日は話して帰るだけ」という日もあったが、何げないやりとりの積み重ねが、青木さんの変化を見逃さない下地となった。また、松田さんの訪問を通じて、生活の中での課題も明らかになっていく。例えば、いつ訪問しても部屋が散らかっている、滞っている支払いがある、通販で買い物しすぎてしまう……。こうした情報は森岡さんや社協に共有され、支援はより包括的なものへと発展していった。
芸術家肌で“宵越しの金は持たない”主義の青木さん。自由な生活スタイルを尊重しつつも、支援は実務的な領域へも踏み込んでいくことに。社協では、介護保険制度の枠外にある“すき間”を埋める存在として、松田さんのようなボランティアを調整するほか、金銭管理など多面的な支援を担っている。青木さんも生活費の管理がむずかしくなってきたため、本人の同意を得て、社協が金銭管理を開始。現在は必要な支払いの確認などをサポートしている。
専門職だけでは、日常のすべてに目を配ることはできない。地域のボランティアにも限界がある。そして何より、本人の意思が明確でないことには支援は成立しない。専門職、地域の人、本人との三者の信頼関係が重なり合うことで、支援の輪は広がっていく。青木さんの事例は、「地域で支えるケア」の実践例として、これからの在宅支援のあり方に示唆を与えている。
『クロワッサン』1148号より
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