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ひとりでも、ひとりじゃない。信頼でつながる暮らし──青木道子さん “生き方”を守るケア(3)

「助けあって。介護のある日常」──元「劇団民藝」の俳優。ロンドンで演劇と語学を学び、その後30カ国以上を巡って、日本の演劇を紹介してきた青木道子さん。“生き方”を守るケアについて伺った第3回。

撮影・岸本修平 構成&文・殿井悠子

写真は左から順に、森岡さん、青木さん、松田さん。森岡さんが店長を務める『サニーデイズカフェ』にて
写真は左から順に、森岡さん、青木さん、松田さん。森岡さんが店長を務める『サニーデイズカフェ』にて

92歳の青木道子さんが自宅で倒れ、動けなくなっていた状態で発見された。異変に気づいたのは、定期的に見守り訪問をしていた地域ボランティアの松田さんだ。訪問予定日に玄関の呼びかけに反応がなく、普段と様子が違うと感じた松田さんは、すぐに担当ケアマネジャーの森岡真也さんと新宿区社会福祉協議会(以下、社協)に連絡。迅速な連携により青木さんは救急搬送され、一命をとりとめた。

青木さんは劇団民藝の元俳優で、新宿でひとり暮らしをしている。介護保険サービスに加え、社協の支援や地域の見守りに支えられながら、在宅生活を続けてきた。一昨年ころから足腰が弱ってきて、日常生活に不安が見え始めていたが、歩行が困難になってもヘルパーの導入には抵抗を示していた。そこで森岡さんは、まず「話し相手」としての関わりから支援を始めようと、社協に依頼。派遣されたのが、地域ボランティアの松田さんだった。

毎月『サニーデイズカフェ』で開かれる「オレンジカフェ」。認知症の人やその家族らが集うなか、おしゃべり好きな青木さんも松田さんと参加し、紅茶でもてなしている
毎月『サニーデイズカフェ』で開かれる「オレンジカフェ」。認知症の人やその家族らが集うなか、おしゃべり好きな青木さんも松田さんと参加し、紅茶でもてなしている

松田さんは週に1回、青木さんの自宅を訪問。会話を楽しみながら、散らかった部屋を少しずつ片づけていった。「今日は話して帰るだけ」という日もあったが、何げないやりとりの積み重ねが、青木さんの変化を見逃さない下地となった。また、松田さんの訪問を通じて、生活の中での課題も明らかになっていく。例えば、いつ訪問しても部屋が散らかっている、滞っている支払いがある、通販で買い物しすぎてしまう……。こうした情報は森岡さんや社協に共有され、支援はより包括的なものへと発展していった。

芸術家肌で“宵越しの金は持たない”主義の青木さん。自由な生活スタイルを尊重しつつも、支援は実務的な領域へも踏み込んでいくことに。社協では、介護保険制度の枠外にある“すき間”を埋める存在として、松田さんのようなボランティアを調整するほか、金銭管理など多面的な支援を担っている。青木さんも生活費の管理がむずかしくなってきたため、本人の同意を得て、社協が金銭管理を開始。現在は必要な支払いの確認などをサポートしている。

専門職だけでは、日常のすべてに目を配ることはできない。地域のボランティアにも限界がある。そして何より、本人の意思が明確でないことには支援は成立しない。専門職、地域の人、本人との三者の信頼関係が重なり合うことで、支援の輪は広がっていく。青木さんの事例は、「地域で支えるケア」の実践例として、これからの在宅支援のあり方に示唆を与えている。

ひとりでも、ひとりじゃない。信頼でつながる暮らし──青木道子さん “生き方”を守るケア(3)
  • 青木道子 さん (あおき・みちこ)

    1933年生まれ。元「劇団民藝」の俳優。ロンドンで演劇と語学を学び、その後30カ国以上を巡って、日本の演劇を紹介してきた。特技はロンドン流のおいしい紅茶を淹れること。介護保険サービス・社協支援・近所の見守りの3つの柱で支えられながら、ひとり暮らしを続けている。

『クロワッサン』1148号より

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