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『ボクは日本一かっこいいトイレ清掃員』著者 大井朋幸さんインタビュー ──「自分のタイピングの遅さに驚愕しました」

潔癖症の〈ボク〉が就いた仕事は、観光地の公衆トイレ清掃業だった。異色の清掃員が綴る、心打たれる奮闘記『ボクは日本一かっこいいトイレ清掃員』。──本を読んで、会いたくなって。著者の大井朋幸さんにインタビュー。

撮影・中島慶子 文・クロワッサン編集部

大井朋幸(おおい・ともゆき)さん 1974年、東京都生まれ。高校卒業後は料理人として飲食店等に勤務。2017年「奥多摩総合開発」に入社、公衆トイレ清掃の責任者になり、清掃のプロフェッショナル集団「OPT」としての活動が話題に。2025年「オピト」を設立
大井朋幸(おおい・ともゆき)さん 1974年、東京都生まれ。高校卒業後は料理人として飲食店等に勤務。2017年「奥多摩総合開発」に入社、公衆トイレ清掃の責任者になり、清掃のプロフェッショナル集団「OPT」としての活動が話題に。2025年「オピト」を設立

少年時代を過ごした東京・奥多摩で「ゴミ収集業務」スタッフに採用された大井朋幸さん。実際の仕事内容は公衆トイレの清掃だとわかり、その汚さとしんどさに体重が8kgも減ってしまう。退職寸前の彼を変えたのは、当時小学1年生の娘とのやりとりだった。

〈どうやらボクの仕事のことで友達にからかわれたらしい。(略)マジ、この瞬間だった!! こめかみ付近にパーーンと撃ち抜かれる何かが走った!(略)「よし、じゃあ『日本一かっこいいトイレ清掃員』になろう」とね。〉

大井さんは、トイレ清掃員の持つ負のイメージを払拭すべく、「OPT(オピト/おくたまピカピカトイレット)」というチーム名を冠して、派手なユニフォームやプロモーション活動を取り入れた。みるみる奥多摩の観光トイレは美しくなり、OPTの活動も注目を集めるように。テレビや新聞の取材を受け、そして今回、本も書いた。

「初めにこのお話をいただいた時は出版社とか知らなくて、本当に失礼だけど『どちらのイワナミさん?』って(笑)。もちろん文章なんか一文字も書いたことなかったから、編集者さんからはインタビューをライターさんがまとめるやり方も提案されたんですよ」

しかし大井さんは、20年以上使っていなかったパソコンを引っ張り出してきて自ら執筆した。

「だってほら、こんなオファー、なかなか受けることないじゃないですか。作家さんってどんな大変な思いをして書いてるのか、味わってみたいなって。僕、自分で書きますって言ったんです」

そして3週間で一気に2万字書き上げたというのだからすごい。

「でもね、タイピングのスピードの遅さに驚愕しました。あと老眼(笑)。パソコンも古いから、ずっとケーブル繋いでてもバッテリー減ってくぞみたいな。なんか画面が黄色くなってきたりとかね」

僕は不可能なことを目標にして上に上がっていこうとする

本書には、大井さんの生い立ちからトイレ清掃員の日常、OPTとしての活動、執筆の経緯なども記されているが、担当編集者が「これほど熱量のある文章はなかなか見たことがない」と言うように、どのページにもパッションが染み渡っている。勢いのある筆致は、大井さんの人柄そのままだ。

「僕は、絶対不可能なことをあえて目標に掲げることで、無理だとは思いながらも絶対そこを目指そうとするんです。上に上がっていこうとする。人ってやっぱりさ、自分の度量をある程度わかってるから、水準とかもこれぐらいだろうってしちゃうところを、僕はさらに上を目指すことによって、少しは頭を出せるのかなって」

人とは違う活動を続けるにつれ、ひとつの肩書きでは収まらなくなる大井さんだが、彼の姿を見てトイレ清掃員という仕事に未来を抱く若者も増えてきそうだ。

「やっぱいまだに職業的な地位や賃金は低いよね。でも、それを変えられるのは僕たちかもしれない」

潔癖症の〈ボク〉が就いた仕事は、観光地の公衆トイレ清掃業だった。異色の清掃員が綴る、心打たれる奮闘記。 岩波書店 1,034円
潔癖症の〈ボク〉が就いた仕事は、観光地の公衆トイレ清掃業だった。異色の清掃員が綴る、心打たれる奮闘記。 岩波書店 1,034円

『クロワッサン』1147号より

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