江戸幕府の隠された歴史と文化が明らかに。東京国立博物館で開催中の特別展『江戸☆大奥』が面白い!
取材・文 甘利美緒
あこがれの大奥を描いた錦絵『千代田の大奥』が全場面一挙公開!
この展覧会では、徳川将軍家という大きな権力の狭間に生きてきた女性たちの栄枯盛衰が、遺された歴史資料やゆかりの品を通して4章立てで明らかにされます。
第1章で紹介されるのは、十一代将軍・徳川家斉時代の大奥をモデルにしたとされる『偐紫田舎源氏』や『千代田の大奥』に代表される錦絵のシリーズなどを通して、江戸時代から現代に至るまで庶民の憧れとともにイメージされた「大奥」。江戸時代末期から明治時代にかけて活動した浮世絵師・揚洲周延による『千代田の大奥』の全40場面が一挙に公開される、非常に貴重な機会となっています。※会期中、展示替えあり。
あの将軍付御年寄・瀧山が使用した駕籠(かご)も
御台所や側室、そこに仕える女中たちの序列が整えられたのは、三代将軍 徳川家光の時代。第2章では、大奥の礎を築いたと言われる春日局と家光との関係や、二代将軍 徳川秀忠の娘であり徳川将軍家直系の存続を守った功労者でもある千姫、そして大奥で大きな政治的権力を握り栄枯盛衰を見てきた女中たちが取り上げられます。
中でも注目したいのが、十二代将軍 徳川家慶の侍女となり、のちに御年寄として最後の将軍・慶喜まで仕えた瀧山(たきやま)の所有と伝わる「女乗物(おんなのりもの=江戸時代に身分の高い女性が使用した豪華な駕籠)」。中には瀧山が実際に履いていたとされる草履が残されており、それが外からちらりと見えるようになっています。
重要文化財「刺繍掛袱紗」、圧巻の全31枚!
世継ぎを生み育て上げる指名を与えられていた将軍の妻妾たちにとって、大奥での生活は常にプレッシャーとの戦い。第3章では、閉ざされた世界の中で気丈に生きた歴代の大奥のヒロインたちが、ゆかりの品々とともに紹介されます。
見どころのひとつが、五代将軍 徳川綱吉を産み育てた桂春院(お玉の方)の振袖。彼女は八百屋の娘から将軍の生母に上り詰め、“玉の輿”の語源にもなりました。
およそ50㎝四方の袱紗に大胆な吉祥模様を精緻な刺繍であらわしたこれらの掛袱紗は、五代将軍 綱吉から側室の瑞春院に贈られ、年始や歳末など年中行事の祝い事に合わせた贈り物に掛けられていたようです。寿ぎのモチーフを幾重にも重ねられており、洗練された模様構成と、当代随一の職人の手による刺繍の技は実に見事。まさに眼福です。
タツノオトシゴも!和宮のかわいい宝物に胸キュン
第4章では、大奥の女性たちがどのような日々を過ごしていたのかが、贅を尽くした婚礼調度や四季折々の衣装、遊び道具などを通して浮き彫りにされます。
来場者の注目を特に集めていたのが、十四代将軍 徳川家茂の正室、静寛院こと和宮が京都から持ち込んだのではないかと思われる小物たち。タツノオトシゴから知恵の輪まで、何気ない物を大切にした和宮の人柄が透けて見えるようです。
音声ガイドも見逃せません。NHKのドラマ10『大奥』で徳川吉宗役を務めた冨永愛さんによるナビゲーションや、脚本家・森下佳子さんと展覧会担当研究員・小山弓弦葉さんの対談が収録されていて、エンターテイメントとしての大奥を深掘りすることができます。
前期と後期で展示替えが行われるようなので、ぜひ合わせてお楽しみください!
特別展『江戸☆大奥』
会場:東京国立博物館 平成館(東京都台東区上野公園13-9)
会期:2025年9月21日まで(前期:8月17日まで、後期:8月19〜日9月21日)
※会期中、一部作品の展示替えあり。
休館日:月曜日 ※ただし8月11日、9月15日は開館
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