【女の新聞 100年を生きる】中村真由美さん──乳がん患者専用のおしゃれブラを開発「術後の願いに当事者として応えたい」
撮影・土佐麻理子 文・寺田和代
約40年前、乳がん手術を受けた祖母が使っていたブラジャーを目にした時の衝撃を今も覚えている。
「ベージュ一色で、不恰好で、デザイン性ゼロ。おばあちゃんが使うのだから仕方ないのか、と」
それから約30年、自身も同じ病で両胸を手術した後に訪ねた店で見たのは、昔、祖母が選ばざるをえなかったものとほぼ同じだった。
「この中から私は選べない」。だって乳がん術後も“おしゃれに、私らしくありたい”思いは変わらないから。それが、中村真由美さんが、乳がん専用の下着を開発・販売する会社を立ち上げる契機になった。
2011年、49歳で乳がん切除手術を受けた。2人の娘はまだ中学生と大学生。精神的な打撃も大きかったけれど、術後は気持ちを切り替え約半月で復職。それまで企業の管理職として職員の産休・育休などの権利取得に努めてきた中村さん。社内のがんサバイバー第1号としての姿も自他共に示したかった。が、治療と仕事の両立は困難を極めた上に“ブラジャー問題”にも悩まされた。
右・柔らかメッシュでどんな乳房サイズもホールドする
「こんな下着じゃ職場に行くどころか、外出する気にもなれない」
ネットで商品を買い集め、試着しては落胆の連続。
「その中にたった1社、これは、という商品が。しかも身近なエリアに。迷わず電話し、貴社のおしゃれな商品を、乳がん術後の人も着用できるように工夫していただけませんか、と」
たった一本の電話から、そのメーカー(エレーヌ/本社・京都市)との協働はほどなくスタート。すでに乳がん患者会で世話役を務めたり、学会で患者として講演する機会を通じて、おしゃれな下着を求めているのは自分だけじゃない、と確信していた。
2015年、会社を退職し、個人事業主として事業を進め、2017年に現在の会社をひとりで設立した。
最初に取り組んだのは、乳腺外来のある全国数千カ所の医療機関に自社パンフレットを送ること。
「女性の看護師さんから患者さんに商品の存在を伝えてほしくて」
狙いは当たり、全国から問い合わせや注文が届くように。並行して、乳房再建にあたる形成外科医、看護師、乳がん当事者30人が知見を出し合う商品開発にも着手。2年半かけて商品化した乳房再建後専用ブラジャー「エメリタ」は特許を取得し、ロングセラーに。
京都と東京のショールームでは、現在4人の乳がん当事者が活躍中。
「当事者は当事者と話したいもの。お客様は安心して相談でき、スタッフも体験を活かして働き続けられる。私自身もそのことに力を貰うから頑張れるのだと思います」
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マガジンハウス クロワッサン編集部「女の新聞」係
『クロワッサン』1145号より
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