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松重豊さん×あべみちこさん対談。エッセイ「たべるノヲト。」の舞台裏

松重豊と、旭川在住のイラストレーター・あべみちこ。親交の深い二人が織りなすクロワッサンのエッセイ連載「たべるノヲト。」は、松重さんが紡ぐ「食の記憶」をあべさんが味わい、絵にしていただく方法で一編が誕生する。そんな「あ」と「うん」から生まれる作品の舞台裏について二人に伺ったところ、いつしか─。
松重豊さん×あべみちこさん対談。エッセイ「たべるノヲト。」の舞台裏

松重 あべさんとの出会いは2016年。「孤独のグルメお正月スペシャル〜真冬の北海道・旭川出張編」(テレビ東京)ですね。

あべ もう8年前!本当に早いですね〜。

松重 「孤独〜」はお店選びが大変なので、地元の方の協力が不可欠。そこで、当時のチーフディレクター・みぞさん(溝口憲司氏)が「あべみち、あべみち〜」と呼んで全幅の信頼を寄せていたあべさんを紹介してくれてね。

あべ いや〜ありがたいです。「孤独〜」は、ディレクターさんたちが自分の足でここぞというお店を見つけるというこだわりがあったので、お手伝いさせていただきました。

松重 その節はありがとうございました。その後、あべさんのお仕事はイラストレーターと伺い、年末にあべさんが描かれた美味しそうな食べもののイラストがたくさん載った「くいしんぼうカレンダー」をいただきました。

あべ 「トイレに飾ってください」と添えさせていただいて(笑)。

松重 おかげさまであれから8年、今朝もあべさんの絵を見ながら快調な朝を迎えました。このルーティンが生まれてから、あべさんと何か、書く者と描く者とで共同作業をしたいと思い、前回の本(『空洞のなかみ』(毎日新聞出版))で実現したわけです。しかも今回のエッセイはあべさんのイラストがカラーですからね!

あべ いやもう、雑誌「クロワッサン」でこんなに大きく掲載されると思っていなくて。いまだに「松重さんの連載に、みっちゃんの絵が載っててビックリ!」と言われます。

松重 最初にお会いして以来、旭川に行くたびに空港でも街中でも、あべさんのイラストを見ない日はないですね。いったい、旭川でどういう存在なんですか(笑)?

あべ いや〜そろそろ「飽きた」と言われそうでビクビクしています。他のイラストレーターさんは、センスがあるしおしゃれで。私の絵はご覧の通り、おしゃれじゃないんです。

松重 「たべるノヲト。」はジジイの世迷言だよ?読者さんもこのエッセイにおしゃれを求めてないんじゃない(笑)?僕は誌面で「あべさんこうきたか〜」って思うのが毎回楽しみ。イラストは描くのにどのくらい時間がかかるの?

あべ ひとつの食べものを描くのに6時間くらいですかね。

松重 わ〜、そんなに!

あべ 楽しいからあっという間です。描いているときは「どうしよ〜、全然美味しそうじゃないな」ってときもあって。何度か描き直すと「きた〜!良かった〜」って瞬間が来ます。うちのスタッフに何も言わずに「スキャンしてください」と渡して、彼女が「うわ〜美味しそう!」と言ってくれたら、そこで第一段階突破です(笑)。松重さんの文章はどうやって書いてらっしゃいますか?

松重 朝、一時間ほど犬の散歩をするんだけど、そこでエッセイについて考えることが多くて。何かひとつ面白い話を作って、そこに食べものをねじ込む感じですね。それから家に帰って一時間半くらいで書き上げ、女房に読んでもらったら「これは違うんじゃない?」というものもあって。そうか……と修正して。読者代表ですね。

あべ 素敵な奥様ですね!書かれる順番が食べものからではないのは意外でした。

松重 ストーリーをだいたい三段構えにしています。起承転結ではなく序破急みたいな感じで。ただ目次をご覧いただけたらわかるように、わりと出し切りまして(笑)。これからは創作系になっていくかもしれません。女性誌での連載ですが、単行本になったらやっぱり男性にもたくさん読んでいただきたい。あべさんの絵もおじさんウケしそうだしね。鮭とば描いちゃう人だから。

あべ そうですね(笑)。老若男女の方に読んでいただきたいです。ところで松重さんは最近どんな食べものが気になります?

松重 そうだね〜。もう一度プリッと太った秋刀魚が食べたいと心の底から思うね。あの、焼いているときから脂がドロドロ湧き出てくるようなさぁ。

あべ 最高ですよね!内臓がジリジリと焦げてきてね〜。

松重 そうそう、そこを身と絡めながら食べてね〜。

あべ 魚といえば胃袋とか、タチ(鱈の白子)もいいですよね〜。

松重 胃袋?タチ?それはもう緯度の違いだね。全く馴染みがない(笑)。鱈の白子をタチと呼ぶのは初めて知ったな。

あべ 北海道ではそう呼ぶことが多いですね。話しているだけで(旭川の)独酌三四郎さんで日本酒飲みたくなります。(燗瓶を炭火にかけた)焼燗で。どうやら熱燗よりも焼燗のほうが旨味がギュッとするそうですよ。

松重 あくまで個人の感想ですって注釈いるよね、きっと(笑)。「孤独〜」で初めて三四郎さんに伺った当時、こんな美味しい日本酒ないなって本気で思ったな〜。

あべ そうですね〜。古くからあるお店には理由がありますよね。

松重 気になるといえば、最近、(マネージャーの)鈴木さんがものすごく美味そうに食べるもんだから、フルーツサンドというものに目覚めましてね。いろいろ食べるけど果実園のフルーツサンドは美味いな〜。パインとマンゴーとか入って、四角形でね。

あべ うわ〜四角形っておしゃれですね。すぐに食べてみたいと思います。私は週一で欲するものといえばスパイスです。中でもクミンが大好きで。ラジオ番組で味噌汁に入れると消化を促してくれていいって言ってましたよ。

松重 スパイシー味噌汁?どうやって作るの?

あべ クミンシードを炒めて豚汁に入れてもいいですし、クミンパウダーをそのままいつもの味噌汁に足してもいいですし。サラダにも合いますよね。

松重 クミンいいね〜。

あべ あとは最近パンチェッタ(ハーブと塩漬けした豚バラ肉を熟成)を作りました。

松重 パンチェッタといえばジローラモさんのお名前でしょ?

あべ いえいえ、お料理のほうの(笑)!

松重 すごいな〜。さすがだね。パンチェッタを家で作るなんて!

食べものトークはまだまだ続くので、続きはまた今度に。

  • 松重豊 (まつしげ・ゆたか)

    俳優。1963年生まれ、福岡県出身。蜷川スタジオを経て、映画・舞台・ドラマで幅広く活躍。FMヨコハマ『深夜の音楽食堂』のパーソナリティを務める。テレビ東京開局60周年連続ドラマ「それぞれの孤独のグルメ」に出演。また、主演・監督・脚本を務める『劇映画 孤独のグルメ』が2025年1月10日に全国公開。松重豊 公式YouTubeチャンネルでは、本書の朗読「しゃべるノヲト。」も公開中。

この対談は「たべるノヲト。」からの転載です。

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