畑仕事に夢中! 加藤紀子さんの夏支度を拝見。
撮影・小川朋央、徳永 彩(KiKi inc./上杉さん) 文・黒澤 彩
“夏に向けてやることがたくさん! 手塩にかけ育てた野菜は格別です。”
東京郊外の畑を訪ねると、加藤紀子さんはすでに長靴を履いて植えつけの真っ最中。畑歴13年目とあって、とても手際がいい。
「昨日雨だったから、ちょっと足元が悪いので気をつけてくださいね」
こちらを気遣いつつ、自身はぬかるんだ土など慣れっこの様子。快適な気候とは言えないときも、畑をサボるわけにはいかないのだそう。
「台風が来るとなったら支柱を立てなきゃ!だとか、悪天候のときはむしろやることが増えるかも(笑)。夏にかけては草取りを休めないし、実が大きくなってきたら鳥に食べられてしまう前に収穫したいから忙しいです。しかも、がんばったからといって必ずしも全部うまくいくわけじゃないというのもわかってきました。自然を相手にするのって、こういうことなんだなぁと実感しています」
テレビ番組での体験をきっかけに、本格的に畑を始めた加藤さん。友人と2人でオーナーさんから一部を借りている畑はかなりの広さで、区画ごとに借りられるような家庭菜園とは桁違い。といっても、広い敷地のすべてに何か植えているわけではなく、2年ごとに畑の半分ずつを交互に使うことで、土を休ませている。来年は畑を入れ替えるタイミング。農薬を使わず、堆肥を加えて2年休ませた土は柔らかくふっかふかで、素人目にもいい土だとわかる。
そんな広々した畑の夏支度といえば、やはり夏野菜の植えつけ。どこにどの野菜を植えるか計画を立てて畑のレイアウトをし、それぞれ畝を作って苗を植えたり、種を蒔いたり。
「毎年植えるのは枝豆、トマト、きゅうり、なす、ピーマン、オクラ、とうもろこし、空芯菜あたりでしょうか。食いしん坊なので、基本的には自分で食べたいものを育てています。数年前には夫の好物の落花生に挑戦したこともあります。おいしくできたけど、かなり手がかかった記憶が……」
なんといっても、収穫した野菜を料理して食べるのがいちばんの楽しみ。夏の食卓には、たっぷりの野菜を入れた自家製味噌の味噌汁が欠かせない。
「夏はツルッとしたものばかり食べがちなので、専用の炊飯器で炊く発芽玄米と、夏野菜のお味噌汁を食べて体を整えます。せっかく自分で育てた野菜だから、それに合わせる味噌や塩麹なども手作りするようになりました。サラダも、塩麹とビネガーとオイルだけでとびきりおいしいですよ」
収穫して味わうために始めたことだったはずが、いつからか畑に来て土に触れること自体が暮らしの中の大切なひとときに。
「畑をやっていると、季節の変化をつぶさに感じとることができます。まだ寒くても土が温かくなってきたら春が来たとわかってうれしくなるし、ここは静かだから小鳥の可愛いさえずりもよく聞こえて癒やされます」
夏が近づき、大変なのはこれから。野菜と同時にどんどん成長する雑草を取り、よく実るように芽かきをする。暑くなってくると日中の作業はさすがにキツいので、朝早く畑に来て、ひと作業してからテレビやラジオの仕事に向かうことも。
13年前に自分たちで畑をやってみようと動き始めたとき、まさかこんなにも夢中になるとは思ってもみなかったと加藤さん。
「夏支度だけではなくて、いつも次の季節の支度をするのが畑仕事。なので、やめるタイミングがないんですよ。気がついたら当たり前のように翌年の準備もしていたりします。よく、続いていてすごいねって言われるのですが、もはや、よほどの覚悟がなければやめられません。それに、季節のことをする、旬をいただくという暮らしは本当に豊かで幸せ。この先も飽きることはないだろうと思います」
『クロワッサン』1118号より