“余計な一言”を好印象に変える、5つの原因別・言い換えテクニック集。
いつもの日常会話やメールのやり取りに、もっと心を込めるとしたら……。
撮影・青木和義 イラストレーション・大庫真理 構成&文・堀越和幸
いつもの一言を好印象に変える、言い換えテクニック集。
企業カウンセラーを25年務めている大野萌子さんは、“とっさの一言”が“余計な一言”となって人間関係を悪くする事例を数多く見てきた。
「何気ない返答をしているつもりでも、相手がその一言で傷ついてしまうという局面はたくさんあります。その際、“なんとなく”や“言わずとも察して”という曖昧な表現ではなく、気持ちを込めたちょっとした言い換えをするだけで、印象はガラッと変わります」
気をつけたいのは4つのH。すなわち批判、非難、否定、比較。
「批判と非難、否定はキツい表現になるからわかりやすいのですが、案外無意識にやってしまうのが他人と比較するような物言いです」
下に挙げたのは、5つの原因別にまとめた“余計な一言”の言い換え集。
「余計な一言は何が余計なのかを吟味しながら例文に当たってみてください」
クローズド・クエスチョンで話すと気まずい会話になりやすい。
クローズド・クエスチョンとは相手がイエスかノーでしか答えられない、文字どおり閉ざされた質問のこと。「二択の答えを迫られるので、聞かれた相手はとても窮屈。もっと会話の自由度を上げる質問の仕方を考えていきましょう」(大野さん)。普段の会話があまり発展しないという人は一度確認を。
[お仕事は順調ですか?]
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[お仕事はどうですか?]
答えるほうは「順調です」「順調ではないです」の二択になってしまう。どう?と聞けば、自由度が上がる。
[コーヒーはお好きですか?]
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[コーヒーはいかがですか?]
もしもコーヒーが苦手なら、いかが?と聞かれることで、自分の好きな飲み物の話にも発展しやすい。
[パソコンできますか?]
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[資料を表にしてもらいたいのですが。]
クローズド・クエスチョンに加えて「できますか?」の質問の意図も読み取れない悪例。固まってしまう。
[明日、時間ある?]
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[映画のチケットがあるんだけど、明日時間ある?]
上例と同様で、相手に警戒心すら与えてしまう聞き方。自分に時間があったらどうしようというのか……。
わかっているような物言いが相手を不快にさせる。
もしかしたらちょっと砕けて距離を縮めたいのかもしれない。だが、「相手を理解しているような言い方には注意が必要です。人にはテリトリーがあるので、ちょっとした匙加減ですぐに馴れ馴れしさや、不信感、さらには嫌悪感にもつながってしまいます」。人は案外決めつけて語られるのが苦手なのだ。
[お酒とか強そうですよね。]
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[お酒は召し上がりますか?]
イメージを決めつけた質問の仕方が人を不快な気分にさせる。お酒が強かったら、だからどうなんだと。
[スポーツとかされてましたよね?]
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[お話の仕方が爽やかで素敵ですね。]
背が高くてカッコいい、などの外見にまつわる発言には、それが褒め言葉であっても慎重でありたい。
[緊張しちゃうほうですか?]
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[こういう場って、私緊張しちゃうんです。]
相手に寄り添うような言葉も時に余計なお世話に。自分のことをまず開示していくほうが相手は安心する。
[一人で旅行するタイプですか?]
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[一人で旅行することはありますか?]
相手を◯◯系の人、と決めつける語りは言われたほうは思うところ満載。いったい、私の何がわかるのか?
ネガティブな表現ではなくプラス言葉で話す。
直截的な否定言葉ではなくともどっちつかずの曖昧な表現は相手にマイナスのイメージを与える。「なくはない、と言われたら、なしなのか、ありなのかの判断ができない。責任回避の言い方は混乱も招きます」。仮に判断がつかない事項でも、遠回しに言わないでできるだけ具体的に気持ちを伝えよう。
[なくはないんじゃない?]
▼
[これもありだね。]
同じ内容でも上の2つの言葉を言われたときの心持ちを想像してみよう。「それもいいかもね」もプラスの表現。
[普通においしいです。]
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[とてもおいしいです。]
普通、ってどういう意味?と突っ込みたくなる余計な一言。他の言い換えとしては「すごく好きです」なども。
[寒いから風邪ひかないようにね。]
▼
[寒いから元気で過ごしてね。]
疑いなく使っていそうなフレーズは「風邪」がネガ言葉。言われるとつい刷り込まれてしまったりも……。
[ドアを閉めないで。]
▼
[ドアを開けておいて。]
〜しない、などの否定語を肯定語に変えるだけで表現は柔らかくなる。廊下を走るな→廊下は歩く、も同様。
[意外とよくできたね。]
▼
[◯◯さんならできると思ってた!]
意外と、とは何に比べて意外なのか? 無意識の比較、さらには上から目線の一言が人をさりげなく傷つける。
言語の一般化を避ける。
「常識的に」「一般的に」「普通は」「みんなは」「世間は」の5つはカウンセリングの場では〝一般化〞と呼ばれる言葉。「自分の意見に自信がないときについ大多数の人の意見であるような言い方をしてしまいがちです」。言っているのはあくまでも自分。私は〜、で語る、アイ・メッセージを心がけよう。
[常識的に考えると××だよね。]
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[私はこう考えています。]
当たり前のように使っている、常識的には〜、という言い草が、実は常識でも何でもないことに気づくべし。
[普通、サラダから食べない?]
▼
[私はサラダから食べるんだ。]
「普通」を「私は」に置き換えるだけでなぜこんなに言葉の風通しが良くなるの? 人間関係もまた同様だ。
[今どき、みんな持ってるよ。]
▼
[私はそれがあると便利なんだ。]
そんなことを言われたら、孤立感だって芽生えて反発しそう。素直に便利を認められるのは後者。
[みんなそうだって言ってるよ!]
▼
[気になるから伝えておくね。]
もしかして一斉攻撃? そっと教えてくれてありがとう。2つの言い方が喚起する情感を噛み締めてみよう。
不用意な指示語が相手を不快にさせやすい。
言っている本人はオブラートに包んでいるつもりでも、時に不快な印象を与えてしまうのが「そういう」「そんな」などの指示語だ。「悪気がないとはいえ、相手側はいろいろな含みを感じてしまいます。せっかくプラスの意味合いで言っているなら、素敵、憧れます、など具体的な言葉をチョイスしましょう」
[そういうファッションが好きなんですね。]
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[素敵なファッションですね。]
引っ掛かるのは「そういう」がどういう意味なのかということ。具体的な思いを、プラスの言葉に託そう。
[あんな人と付き合ってるの!?]
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[××さんと付き合ってるんだね?]
もしや微妙な評価が入る人物であるかもしれない。けれども「あんな」はいかにも失礼。名前で呼ぼう。
[そんなとこに行きたいの?並ぶじゃん。]
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[××に行きたいの?でも並ぶよ。]
馬鹿にしたようにも聞こえる「そんなとこ」を、固有名詞で言い換えれば、会話はきっと発展的な展開に。
[そんな音楽を聞くんですね。]
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[テイラー・スウィフトが好きなんですね。]
「そうなんですよ、あなたも聞きますか?」と、素直に会話を続けたくなる問いかけは、さてどちら?
『クロワッサン』1114号より
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