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「ほどよい相槌」「声のトーンを合わせる」…しゃべりのプロ2人が語り合う、話し&聞き上手になるための心得。

阿部恵さんは放送局のアナウンサーを経て、現在はスピーチコンサルタントとして多くの人に話し方を教えている。片や林家あずみさんは高座に上がり大勢のお客さんの前で話すのが仕事だ。ジャンルは違えど、二人ともしゃべりのプロ。そんな二人の考える、話し上手、聞き上手とは?

撮影・青木和義 イラストレーション・大庫真理 構成&文・堀越和幸

味気ない定型文にさようなら、真心を伝える言葉のレッスン。

左・「話すときは8割がた相手の目を見ています」漫談家・林家あずみさん 右・「会話の主役は自分ではなく相手です」スピーチコンサルタント阿部 恵さん
左・「話すときは8割がた相手の目を見ています」漫談家・林家あずみさん 右・「会話の主役は自分ではなく相手です」スピーチコンサルタント阿部 恵さん

阿部恵さん(以下、阿部) 会話はよくキャッチボールといわれたりしますが、私は相手が主役だと思うんです。

林家あずみさん(以下、あずみ) はい。

阿部 まず、相手がわからない話を一方的に話さないということ。よくインテリの人が小難しい話を一人でしゃべっているということがありますが、相手が相槌も打てないような話し方は会話として成立していない。

あずみ ああ、そうですよね。私も、話し上手も聞き上手も、まずは相手への思いやりだと思います。自分が話している内容を、相手がちゃんと理解してくれているか、あるいは退屈してないか、常にその表情や態度を観察しながら、進めるべきじゃないかと。

阿部 そういう意味で言うと、話すときでも聞くときでも、相槌ってすごく大切ですよね。

あずみ すごーく大切だと思います。その都度声に出さなくとも、絶妙な間合いでうなずいてくれる人には、つい続きをしゃべっちゃいますもんね。

阿部 アナウンサー時代にたまに何を聞いてもこっちの顔もろくに見ないで不機嫌な声で、ああ、としか答えてくれない方とかがいて。

あずみ 怖い……。

阿部 そのままだと番組にならないから、本番前にほぐして人間関係を作るところから始めてました。今日はどちらからいらしたんですか?と尋ねたり。

あずみ 顔を見る、目を見る、というのも会話のときには大切ですよね。

阿部 そうなんです。あずみさんは日頃はどうですか?

あずみ 私は8割がた見ていると思います。ちょっとした目線や表情の変化で、相手の気持ちがわかる気がするので。

阿部 私も見るようにしていますが、中には見られるのがつらい人もいる。そう感じたら、さりげなく外します。

あずみ 見られるのもそうですが、目を見るのが苦手という人もいますよね?

阿部 そんなときに私が講習会で教えているのは、目と目の間、鼻筋の部分を見ましょうという方法です(あずみさんをじっと見て)。どうですか?

あずみ なるほど、目を見ていないのがわからないのに自然な感じですね。

阿部 顔を見るというのは、私はあなたの話をちゃんと聞いていますよ、というメッセージなんだと思います。相手を安心させるための。

あずみ 確かにそうですね。

ずっと話さないと頬の筋肉が衰えてしまう。

阿部 あずみさんは話すときに声の出し方などで気をつけてらっしゃることはありますか?

あずみ 声のボリュームを相手に合わせるようにしています。大きな声の人には大きい声で、小さな声の人には小さな声で、とか。ただ、個人的にはあまり大きな声は得意ではないかも。

阿部 私は仕事柄、ハキハキと大きな声になっちゃう(笑)。それこそ昔、毎日ニュースを読んでいたころはいつ原稿が飛び込んできても読めるくらいに頬がほぐれていましたが、でも夏休みなんかで1週間でも間があくと途端に頬の筋肉が衰えてしまい、慌てて屋上に上がって、あ・え・い・う・え・お・あ・お、と発声練習した覚えがあります。

【固まった頬をほぐす顔の筋トレ。】口を大きく開けながら、あ・え・い・う・え・お・あ・お、と10回くらいをゆっくり発声する。これだけで舌のまわりがだいぶスムーズになる。
【固まった頬をほぐす顔の筋トレ。】口を大きく開けながら、あ・え・い・う・え・お・あ・お、と10回くらいをゆっくり発声する。これだけで舌のまわりがだいぶスムーズになる。
「自分の滑舌が悪いと思う人は 頬の筋トレが効きますよ(阿部さん)」
「自分の滑舌が悪いと思う人は 頬の筋トレが効きますよ(阿部さん)」

あずみ 1週間で衰えてしまうんですね。

阿部 はい。なので、日ごろ自分が滑舌が悪いと思っている人は、ぜひ、頬の筋トレを日課にしてみるといいです。

あずみ 私も声のトーンというのが気になっていて、高座に上がるときはボイスレコーダーで録音して必ず後で聞き返すようにしています。客観的に自分の声を聞くといろいろな発見がある。あれ、案外ここの言い方はキツめだったなとか、ここはもっと低い声のほうが話のオチに合うな、とか。そうやって、思い込んでいるイメージと実際のギャップを埋めるようにしています。

阿部 それは素晴らしい。声には通り道があって、俯いて話せば暗くなるし、前を向くだけでお客さんに届きやすくなるので、そうしたことの気づきにもつながりますよね。話のネタ探しなんかはどうしているんでしょうか?

あずみ 日常でちょっとおかしかったこととか、かっこよかった言い回しとか、悲しい話なんかも、ひたすらスマホに箇条書きでメモをしています。

「おかしかったことをスマホにメモ、 私の話題作りのネタ帳です(あずみさん)」
「おかしかったことをスマホにメモ、 私の話題作りのネタ帳です(あずみさん)」

阿部 それを時々見返したり?

あずみ はいそうです。ひどいこともいっぱい書いてあるので、人には絶対に見せられませんけど(笑)。

阿部 と言われると余計に見たくなりますね(笑)。

あずみ 阿部さんにぜひ伺いたかったんですが、いざ本番というときに何か実践している秘密の技ってありますか?

阿部 私はカンペ作りに命をかけているので(笑)、先日も大きなコンテストでその作成が大変でした。アナウンサー病というのか、話し中に5秒でも間が空くのが耐えられないほうなので。あずみさんは?

【阿部さんが本番で命をかけているカンペ。】至る所に付箋と書き込みが。どんな局面にもこれで対応。写真は〈ウーマンズビジネスグランプリ2024in品川〉でMCを務めたときのもの。
【阿部さんが本番で命をかけているカンペ。】至る所に付箋と書き込みが。どんな局面にもこれで対応。写真は〈ウーマンズビジネスグランプリ2024in品川〉でMCを務めたときのもの。

あずみ 私は本番前の肩甲骨運動と、そしてニヤニヤすることです。

阿部 ニヤニヤ?

【話すときの緊張をほぐす肩回し運動。】まずは大きく深呼吸をしてから、開いた両腕を前に後ろに、自分がよしと思う回数、回転させる。肩甲骨がほぐれると肩の力が抜ける。
【話すときの緊張をほぐす肩回し運動。】まずは大きく深呼吸をしてから、開いた両腕を前に後ろに、自分がよしと思う回数、回転させる。肩甲骨がほぐれると肩の力が抜ける。

あずみ はい、前座修業中に身につけました。前座の時代は師匠(林家たい平さん)に、あなたは自分をいないものとしながらも、いかにあなたの存在で周囲が気持ちよく過ごすことができるかそれだけを考えなさい、と言われまして、それで常にニヤニヤしていれば何でも乗り切れることを知りました。

【どんな局面もこれで乗り切る、ニヤニヤ顔。】前座時代から培ったニヤニヤ顔は今ではいくつかのヴァージョンが。TPOで使い分ける。ニコニコではなくニヤニヤというところが肝。
【どんな局面もこれで乗り切る、ニヤニヤ顔。】前座時代から培ったニヤニヤ顔は今ではいくつかのヴァージョンが。TPOで使い分ける。ニコニコではなくニヤニヤというところが肝。

阿部 なるほど。会話にはバーバル(言語)とノンバーバル(非言語)のコミュニケーションがあるといわれますが、同じ内容を伝えるのでも、ムスッとしているより、笑顔のほうが相手によっぽど伝わるものがありますよね。

あずみ はい、最後はこれです。

今からすぐに実践できる、 ノンバーバルのコミュニケーション。

■ 話すときは相手の顔を見る。

■ 程よい相槌は聞き上手の必須条件。

■ 人はニコニコしてる人に心を開く。

■ 声のトーンを相手に合わせる。

  • 阿部 恵

    阿部 恵 さん (あべ・めぐみ)

    スピーチコンサルタント

    合同会社Confill代表。元CBC(中部日本放送)アナウンサー。国会議員政策担当秘書を経て、現職に。ビジネスパーソンなど6000人以上のスピーチを指導。

  • 林家あずみ

    林家あずみ さん (はやしや・あずみ)

    漫談家

    2010年、林家たい平を師匠に三味線漫談家として弟子入り。2014年には前座修業を終えて、現在、寄席や落語会などの高座を中心に活躍中。

『クロワッサン』1114号より

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