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『ほとけの国の美術』府中市美術館【青野尚子のアート散歩】

文・青野尚子

ほとけの教えをさまざまに描いた江戸絵画。

府中市美術館では毎年「春の江戸絵画まつり」と称して江戸期の絵画をテーマごとに展示している。毎回、楽しみにしている人も多い人気企画だ。今年のテーマは「ほとけの国の美術」。さまざまな形で私たちの心に根づいている仏教がどのように描かれているかが見られる。

伊藤若冲《石峰寺図》京都国立博物館蔵(前期展示)
伊藤若冲《石峰寺図》京都国立博物館蔵(前期展示)

江戸絵画がメインの展覧会だけれど、今回特別に出品される室町時代の《二十五菩薩来迎図》は昨年、修理を終えたばかりの大作。

臨終にあたって菩薩が二十五人も出迎えてくれる、ありがたい絵だ。一方で生前の行いが悪いと、恐ろしい地獄が待っている。ほかの絵にはその地獄の様子が描かれる。燃えさかる火に投げ込まれるなど、考えただけでも身の毛がよだつ。修業のため身なりもかまわない寒山拾得(かんざんじっとく)など、ちょっと変わったキャラクターが登場する絵も楽しい。

曽我蕭白《雪山童子図》松阪市・継松寺(後期展示)
曽我蕭白《雪山童子図》松阪市・継松寺(後期展示)

動物の絵が多いのも「ほとけの国の美術」展の特徴だ。

仏さまと動物は関係がなさそうに思えるけれど、動物にも心があるのだから人と同じように慈しむべきと感じる私たちは、たくさんの動物の絵を生み出してきた。なかでも円山応挙や長沢蘆雪の子犬は今も多くの人に愛されている。仲よく毛づくろいをする猿や花とたわむれるスズメにも、絵師たちが注いだ慈愛の眼差しが感じられる。仏さまが護ってくれる、そう信じる人々が描きだした優しい世界を見に行こう。

伊藤若冲《白象図》(後期展示)
伊藤若冲《白象図》(後期展示)

前期(~4月7日)と後期(4月9日~)で大幅な展示替えを行う。決して上手とはいえない絵、変な絵、ゆるさがかわいい絵など、江戸時代に多く描かれた禅画もみどころだ。

ほとけの国の美術
3月9日(土)~5月6日(月・振休)
●府中市美術館
(東京都府中市浅間町1・3) 
TEL.050・5541・8600(ハローダイヤル)
10時~17時 月曜休(4月29日、5月6日は開館)
入場料一般700円ほか

  • 青野尚子 さん (あおの・なおこ)

    アート・建築関係のライター

    著書に『超絶技巧の西洋美術史』(池上英洋さんとの共著、新星出版社)など。

『クロワッサン』1113号より

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