49歳で始めたひとり旅に夢中、料理家・山脇りこさんの趣味活。
そんなアクティブな山脇りこさんの、人生を彩る趣味活とは?
撮影・黒川ひろみ 文・嶌 陽子
50代はひとり旅にぴったりの時期でした。
[山脇りこさん]×[ひとり旅]
●はじめた年齢
49歳
●きっかけ
ひとり旅ができる人でありたいと思ったから。
「行ってみたい場所を保存しているんです」と言って見せてくれたスマホには、全国各地の店や景勝地などがいっぱい。
山脇りこさんは年に3回ほど、国内や海外へのひとり旅を楽しんでいる。きっかけは、49歳の時に誘われて参加した台湾へのグループ旅行だった。
「仕事が忙しかった時期でもあり、下調べもせずひたすら他の人たちについていっていたら、たまたま先に一人でホテルに戻ることになった時、同行者に『一人で大丈夫?』と言われたんです。私、一人で大丈夫じゃないように見えるんだ、とショックでした。
20代の頃はひとり旅もしていたけれど、結婚してからはずっと夫や友だちと一緒。それが快適だったのですが、この先もずっと楽ちんのままでいいのかという疑問が湧いてきて。ひとりで旅ができる人になりたい! って思ったんです」
かくして、20数年ぶりのひとり旅に挑戦。最初は長崎の実家から東京へ戻る途中、京都に1泊した。
「それまで京都には何度も行っていたのに、夕食のお店に一人で入る勇気がなく、デパ地下で買ってホテルで食べました。翌朝は清水寺までランニングしたんですが、これがすごくよかった。早朝の清水寺はほぼ貸し切り状態だったし、昼間とは違う街の素顔を見ながら住人のような気分になれるのが楽しくて。その後も朝ランは旅のルーティンになりました」
それ以来、初めの頃は夫との旅に数日先乗りする形で、少しずつ経験を重ねていった山脇さん。金沢や甲府、パリ、台湾など、あちこちへ出かけていくようになったが、今も旅慣れてきたとは言えない、と話す。
「反対方向に行ってしまうなど道に迷うこともしょっちゅうだし、一人で夕食の店に入るのもまだまだ苦手で、目当ての店の周りを3周ほどしてやっと入れた、なんてことも。ものすごくビビりで、今でも海外に行く時は用心のため靴底に20ドルほど入れています。でも、目的は旅慣れることではなく、無事に帰ってくること。だから、それくらいでいいかなと思っているんです」
計画変更も休むのも、全て自由なのが醍醐味。
奈良で法隆寺をじっくり見学したり、那覇でクラフトショップを巡ったり。行き先によってさまざまな楽しみ方をしている山脇さんだが、旅の基本となるのは、自由に街を歩き回ることだ。
「ひとり旅のよさは、やっぱり全部を自分で決められること。大好きな市場に何時間いてもいいし、美術館が気に入ったら一日中いてもいい。計画も気兼ねなく変更できるし、疲れたら休んでも。この気ままさがいいんです」
共に行動する相手がいないため、一日誰とも話さない日も。だが、それも心地よいと感じている。
「自分自身と会話するというか、自分とふたり旅をしている感覚があるんですよね。一人だからこそ、じっくり見たり考えたりできる。街で同年代や年上の人たちを見かけて、いろいろな人生があるんだなと思ったり、自分がここで生まれていたらどんな人生になっていただろうかと想像したり。旅の最中に感じたことが、帰ってしばらく経ってから新しい価値観に気づかせてくれたり、視野を広げてくれたりもします。もちろん旅そのものもいいんですが、帰ってからのこういう経験が私にとっては大きな魅力なんです」
「一人で大丈夫?」の一言をきっかけに始めたひとり旅。一つの旅を終えるたびにささやかな自信がつき、日常にも変化が起きた。一人でいることの充足感を知ったからか、これまではあまり気乗りがしない会合でも多少無理して参加していたのが、最近は潔く断るようになったという。
「夫との関係も、自分の気持ちの中では少し変化した気がします。一人でも生きられて、自分の考えを持っている人同士が一緒にいる関係が素敵だと思っていたんですが、そういう関係に前より近づけた気がするんです」
鎌倉、水戸、北海道、イタリア……。これからひとり旅をしてみたい土地は、まだまだたくさんあると話す山脇さん。
「若い頃より判断力や経験があり、しかも体力もまだ充分にある50代は、まさにひとり旅の適齢期だと実感しています。帰ってからも時々旅のことを思い出して機嫌よくいられるし、周りの人にも優しくなれるんです」
【私の旅のルーティン】
旅の最中や前後に読むその土地にまつわる本。
早送りで街を見られる朝ランは必須。
お土産は食品と夫や自分への絵はがき。
神社のお守りにずっと守ってもらう。
『クロワッサン』1096号より