『TRY48』著者、中森明夫さんインタビュー。「力の全てを出し切って書き下ろしました」
撮影・中島慶子 文・広瀬桂子(編集部)
「力の全てを出し切って書き下ろしました」
47歳で死んだはずの寺山修司(TERAYAMA)が実は生きていて、85歳のいま、アイドルグループ「TRY48」をプロデュースするという、前代未聞の想像力で描かれた小説。それが本書だ。
アイドル評論家、コラムニストとして多数の著作がある中森明夫さんだが、最近は小説家としての活躍がめざましい。
大杉栄が100年後に蘇るという設定のパンク小説、『アナーキー・イン・ザ・JP』(2010年)は三島由紀夫賞の候補になり、2019年には自伝的な小説『青い秋』を発表した。
「その直後にコロナで誰にも会えなくなって、精神的にもきつかった。でも反動で、これを突破したい、パッと明るい話を書きたいと」
寺山修司をモデルにしようと思ったのはなぜか。
「’60年生まれの自分はリアルに影響を受けたし、調べれば調べるほどとんでもない人なんですよ。詩人であり、歌人であり、劇作家であり、一方で評論家でもあった。でも、アイドル評論は書いていないんです。客観的に見るのではなく、本当はプロデュースしたかったんじゃないかと。だから僕が、寺山をアイドルに持ち込んだんです」
実際に寺山は、’67年に天井桟敷というアングラ劇団を作り、’75年には東京・阿佐ヶ谷で路上パフォーマンスを繰り広げ、新聞沙汰となる。その事実も見事に小説化していく。
「小説は虚構だけだとだめだと思っています。何を書いてもいいという自由はあるけれど、事実は押さえる。そうすると寺山が自分に憑依してくるんです」
巻末の参考文献が圧巻だ。サブカルおたくの女子高生、サブコに語らせる文学史、カルチャー史はもちろんすべて事実。その上で、現在生きている写真家や劇作家の名前も、大量に登場する。
「虚実がないまぜになるところに、小説の面白さがあります」
描きたかったのは、女の子が夢を叶えて成長していく姿。
主人公の百合子は、本気でアイドルを目指しオーディションを受けまくっているが、毎回書類審査で敗退。そんな時、寺山修司によるアイドル募集の広告を見つける。サブコの力を借りて、寺山の業績についてにわか勉強したうえで、オーディションに臨んだところ、「サブコと二人で一体としての合格」と言われ、念願のアイドルグループのメンバーになるが……。
「引っ込み思案なところもあった百合子が、夢を叶えることでどんどん強くなっていく。それが主軸です。一方で、性格も容姿も違うサブコとの絆も描きたかった。シスターフッドによる成長譚ですね」
女の子二人組といえば、中森さんの初めての小説『オシャレ泥棒』(1988年)を思い出す。ミッキーとミニーというふたりの女の子が東京中のかわいいものを盗みまくる物語。当時、宮沢りえ主演でテレビドラマ化もされた。
“作家は処女作に向かって成熟する”といわれるが、まさにそれを体現。長い年月を経て生まれた、著者最高の傑作といって間違いない。
『クロワッサン』1088号より
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