『死にそうだけど生きてます』著者、ヒオカさんインタビュー。「『この生い立ちは君の強みだ』と言ってもらえます」
撮影・中村ナリコ 文・遠藤 薫(編集部)
「『この生い立ちは君の強みだ』と言ってもらえます」
クリスマスもお年玉もなし。運動系部活に入れない。塾に行けず勉強は図書館で。高校の制服が買えない。大学のレポートを書くPCが買えない。雨漏りあり冷暖房なし限界シェアハウスで生活し、体調を崩す。
文章を中心とする投稿・配信サイトnote。ここでヒオカさんが自らの貧困について綴った「私が“普通”と違った50のこと」が話題を呼んだのは2年前。現在27歳、Z世代と呼ばれる年代だ。
記したのは、これまで直面してきた困難の具体的なエピソード。お金がないということがどういうことなのかを丹念に書き起こした。貧困問題はときに自己責任論の横槍が入るが、当事者ならではの言葉の強さがその気配を凌駕する。
本作は、そのnoteをきっかけに論客として見出されていくヒオカさんが、子どものころから大人になって独立するまで、そして独立してから見える景色を俯瞰したサバイブの書だ。
この生い立ちこそが私の強みだな、って。
〈幼いころの記憶は、いつも父の暴力とともにある。〉
〈私は県営の団地に住んでいた。(略)この団地には、最貧困層が集う。〉
「つらかったことを書くのはしんどくないかと、聞かれることがあります。でも逆に『えっ? そうなの?』って。生まれたときから、人生が安定していた時期が1秒もなくて、標準値がこれなので」
逆に、書いたことでこの生い立ちこそが強みだと言われることも多く、勇気が湧いたと語る。
「『あなたには輝きが、価値があるんだよ』って言ってくれる人がいる。私の生い立ちって隠さなくていいんだとうれしくて」
本を読んだ読者からは、2通りの感想が届くそうだ。
「『貧困でこんな思いをしている人がいたなんて、全く知らなかった』という方。そして『自分も弱者側だしそう思っていたけど、“強者性”もあったと気づいた』という方」
ヒオカさん自身、国公立大学を受験する学力があったこと、親が貧しいなかでも知人に入学金を借り、大学に行かせてくれたという点では強者性もあったという自覚がある。
「自分は貧困から抜け出して発信する側になった、みなさんも私みたいになって!という気持ちでは全くありません。この本を書いたことで、新たな課題や社会の側面が見えてきたので、さらにもっと発信しなきゃいけない。自分の書く使命がより強くなってきた感じがします」
分野を絞らず、表現をする人になりたいという。
「格差問題で出てきたライターが、派手なカッコでコスメやお笑いを語ってもいいじゃないですか? それに、地味なスーツで、一つ結びにひっつめて……じゃなくて、ゴテゴテな人が貧困を語っても面白いと思いませんか」
カラーコンタクトの奥の瞳が力強く光った。
『クロワッサン』1084号より
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