『ギフテッド』著者、鈴木涼美さんインタビュー。「初めての小説、書きたいことは書けたはず」
撮影・中島慶子 文・広瀬桂子(編集部)
「初めての小説、書きたいことは書けたはず」
いつかは小説を書く人だと思っていた。そして、その初めての小説は芥川賞候補になった。
「小説を読むのは好きだったので、書きたい気持ちはありましたが、フリーになって最初の3年くらいはAVや風俗の話、その後、アラフォー独身や恋愛の話。依頼されたものはきちんと上げたいと思っていたので、それだけで手いっぱいでしたね。上野千鶴子さんとの往復書簡『限界から始まる』(幻冬舎)を出してから、“書きたいものを書きたい”と気持ちが切り替わりました」
小説の舞台は、歌舞伎町を彷彿させる架空の町。飲み屋で働く主人公の部屋に、がんでもう長くはない母が転居してくる。
「物語や設定はフィクションですが、自分の体験をもとにしている部分はあります。私の母も7年前に亡くなっているんですが、時間が経ったことで、客観視できることが多くなった。時代設定を10年以上前にしたので、私自身の経験を振り返る契機にもなりました」
母と娘の関係、夜の町、女性の体が持つ価値、といったことは、これまでも書いてきた。
「自分の興味は、常にそこにありますね。でも小説は“状況”を書くのがおもしろい。それをつなげていくことで物語になる。コラムやエッセイではしない表現ですから」
確かに、セリフはあまり多くなく、その場の情景が淡々と描写される。そして“涼美節”とも言うべき改行のないスピーディな文章が時折挟み込まれ、読者はぐいぐいと引き込まれていく。
「緻密なストーリーを考えるより、ぼんやりとした画像を思い浮かべました。そうすると言葉が出てくる。自分の部屋に帰ってきて鍵を開ける、その冒頭のシーンを書いたら、あとは勢いがつきました」
母とは別に、二人の友人を失った話も描かれる。一人は子どもを置いて失踪、風俗嬢だった一人は何度も「これから死ぬ」というメッセージを送り続けた末、ついに実際にビルから飛び降りる。
「コロナのせいで、風俗が“社会の敵”のような報道がたくさんされ、セックスワーカーやフェミニストの運動もあったけれど、個人的に腑に落ちないこともある。そういった背景を投影したいと思いました」
数日間、一緒に暮らしただけで母は再び入院。毎日見舞うため勤めていた飲み屋を辞め、付き添う。
「母親は薬のせいで朦朧としていて、もはや、ろくに話すこともできない。それでも母と自分の関係が主人公には気になります。『ギフテッド』というタイトルは、途中まで書いて急に思い付いたんですが、いわゆる天才的な才能のことではなく、“母に与えられたもの”という意味です」
母が最後にノートに書き残した言葉は、不思議な穏やかさと優しさに満ちている。
「読後感はいいものにしたかった。書いてみて、小説は、圧倒的な力があり、自由度が高いと思いました。いま、日本だけでなく、世の中全体が、嫌な感じですよね。こういう時代だからこそ、小説を書く。いまはそう思っています」
『クロワッサン』1078号より