疲れやすいのは、呼吸が浅いから。「肺活」で自律神経もすっきり整う。
注目の「肺活」を紹介します。
イラストレーション・井上沙紀 文・長谷川未緒
肺が元気になると、全身が整う。
夏バテと総称されるさまざまな症状は「ゆったり呼吸して自律神経を整え、酸素をたっぷり含んだ血液を体じゅうに巡らせることが改善策」と語るのは、自律神経研究の第一人者・小林弘幸さん。
小林さんは腸内環境を整える「腸活」で知られるが、新たに「肺活」を提唱。呼吸する力を強化し、血液に取り込む酸素量を増やすことで、全身の健康状態を高めることができると説く。
「新型コロナウイルスの影響で肺に注目するようになりました。肺の機能が弱まると、血液中に酸素を充分に取り込むことができません。全身の細胞や脳が酸素不足になり、疲労やメンタルトラブルの一因に。また、足りない酸素を補おうと呼吸の回数が増えて浅くなります。浅い呼吸は自律神経のバランスを崩す大きな原因です」
長引くマスク生活に暑さも加わり、呼吸の浅さを自覚している人は多いのでは? また、肺の中に張り巡らされ、酸素と二酸化炭素の交換を担う肺胞の機能は、加齢とともに衰えるという。
残念ながら肺胞そのものは鍛えられないが、呼吸のために使われる筋肉・呼吸筋群にアプローチすれば、何歳からでも肺の機能を高められる。
「肺は、肋骨や胸骨、背骨の胸椎に囲まれた胸郭というカゴ状の骨格の中に収まっています。呼吸の際、この胸郭に付いているさまざまな筋肉・呼吸筋群が動くことで、肺も連動して膨らんだり縮んだりします。
ご紹介する『肺活エクササイズ』で呼吸筋群の柔軟性を高めれば、胸郭の可動域が広がるので肺が大きく膨らみ、空気をたくさん入れられるようになるのです。
肺胞自体の機能は変わらなくても1回の換気量が増えますし、深い呼吸は副交感神経に働きかけ、自律神経を整えてくれる。2週間も続ければ、眠りの質や体調の変化を実感できると思いますよ」
(1) 鼻や口から吸った空気は、気管を通って肺へ。
(2) 肺で空気中に含まれる酸素を血液に取り込む。
(3) 酸素を含んだ血液は、血管を通じて心臓へ。
(4) 心臓から血液が送られ、酸素が体じゅうに運ばれる。
(5) 二酸化炭素は血管から心臓、肺を通り体外へ。
肺の機能が低下していないかを、まずチェック。
□ 喫煙者(過去に喫煙歴がある人も含む)
□ ぜんそくなどの呼吸器疾患がある
□ 風邪が3週間以上治らないことがある
□ 一日に咳が何度も出る
□ 黄色や粘り気のある痰がある
□ 呼吸すると、ゼイゼイ、ヒューヒューと音がする
□ 長い坂や階段を上るときに息切れする
□ 歩いていると、同年代の人についていけない
□ ささいなことにイライラする
□ 集中力が続かない
□ 不安やパニックになりやすい
□ 慢性疲労を抱えている
□ 肩こりや腰痛がひどい
□ 便秘に悩んでいる
□ ぐっすり眠れない
□ 冷え性や肌荒れに悩んでいる
風邪が治りにくい、息切れしやすいという人は、肺が弱っている可能性あり。自律神経にも影響を及ぼすため、イライラや不眠なども要チェック。3つ以上当てはまったら、肺の力を高めるエクササイズで改善していこう。
TRY! 【肺活エクササイズの 効果とやり方。】
1日いつでも、少なくとも3つを1〜3セット。
肺を囲む胸郭を取り巻き、呼吸に関わっている筋肉・呼吸筋群を気持ちよくストレッチする「肺活エクササイズ」。食後30分は避けて好きな時間に、できれば全部、少なくとも3つを1〜3セット続けてみよう。下の呼吸法を行いながら実践すると、より高い効果が得られる。
体をリラックスさせ、3〜4秒かけて鼻から息を吸う。腹式、胸式にはこだわらなくてよい。
6〜8秒かけて口から息を吐く。ゆっくりした呼吸は副交感神経の働きを高め、自律神経が整う。
(Exercise1)呼吸をしながら胸部の筋肉を伸ばして、胸部全体をストレッチ。
肩甲骨と胸郭の可動域が広がり、肺がより膨らむように。
(1) 足を肩幅に開いて立つ。両手を頭上に伸ばし、手首を交差させる。鼻から息を吸いながら、腕を上へ伸ばす。
(2)2 口から息を吐きながら体を右に倒す。鼻から息を吸いながら1の姿勢に戻る。左も同様に、左右5回ずつ。
(Exercise2)肩甲骨周りの筋肉を 伸ばして、胸郭の動きをスムーズに。
肋骨の間に張る肋間筋にもアプローチするエクササイズ。
(1) 足を肩幅に開いて立つ。鼻から息を吸いながら手のひらを外側に向けて両腕を開く(肘は90度に曲げる)。
(2) 口から息を吐きながら、親指を外にして手の甲が付くように腕を体の前で合わせる。1、2をセットで10回。
(Exercise3)平泳ぎするように腕を前後左右に動かし、呼吸筋群をほぐす。
肩甲骨と胸郭周りの筋肉がほぐれ、肩こりの解消にも。
(1)足を肩幅に開いて立つ。肩の高さで手のひらを下に向けて腕を曲げ、鼻から息を吸い込む。
(2) 両手を前に伸ばし、口から息を吐きながら平泳ぎのように腕を回し、1の姿勢に戻る。1、2をセットで20回。
(Exercise4)肩甲骨を離したり寄せたりして、肩甲骨周りの筋肉をほぐす。
自分を抱きしめるように腕を交差させるイメージで。
(1) 椅子に座り、手は体の前で交差させ背中に回す。肩甲骨を寄せるようにやや上を向き、鼻から息を吸う。
(2)やや下を向き、肩甲骨を左右に離すようにして肩甲骨間を広げ、口から息を吐く。1、2をセットで10回。
(Exercise5)胸郭と連動する 首の横の筋肉を刺激し、胸郭の動きをよくする。
首の筋の後ろ側、首の真横あたりをやさしく押して。
(1)椅子に座り、やや上を向く。首の横の筋肉(後斜角筋)を指の腹で押しながら、鼻から息を吸う。
(2)首の横の筋肉を指の腹で押したままやや下を向き、口から息を吐き切る。1、2をセットで1分間に5回くらい。
(Exercise6)胸や背中を叩き、 肋骨間に刺激を与え呼吸筋をストレッチ。
叩くことで、筋肉にバイブレーションが伝わる。
(1)背筋を伸ばして立つ。軽く手を握り、鎖骨の下から胸、脇腹、肋骨の間もまんべんなく、リズミカルに叩く。
(2)体の前側と同様に、背中側もまんべんなく叩く。無理せず手が届く範囲で。1、2を合わせて1分くらい。
(Exercise7)脇の下の筋肉をもんで胸郭周りの筋肉をほぐす。
脇の下のこりをほぐすように、気持ちいい強さで。
(1)背筋を伸ばして立つ。呼吸しながら右手で左の脇の下あたりの筋肉をもむ。左手は楽な位置でいい。
(2)反対側も同様に、左手で右の脇の下あたりをもむ。右手は楽な位置でいい。1、2を合わせて1分くらい行う。
『クロワッサン』1073号より